「1日中忙しく働いていたのに達成感がない」「仕事が一向に減らない、それどころかどんどん増えていく」。誰もがこのような状況を変えたいと思っているはずだ。
しかしそのために「マルチタスクを止めて、シングルタスク(一点集中術)をしなければいけない」と言われても、なかなか受け入れられない人が多い。「マルチタスクは有効」という考えはそれほど深く社会に根付いており、日々の膨大な仕事をこなすには必須だと信じられている。
しかし実際には、マルチタスクは生産的どころか逆効果だ。ハーバード大学が実施した研究の結果、タスクを切り替えれば切り替えるほど、生産性が低くなることがわかった。またタスクをよく切り替える人は外部からの影響を受けやすく、集中力が続かない傾向にあるという。
一方のシングルタスクは、思考のなかにある邪念や外部からの刺激を排除し、集中力を維持することに役立つ。「一度に1つの作業に集中して、生産性を上げる」を原則とするシングルタスクを習慣化すれば、あなたの生活の質は確実に変わるはずだ。
「やるべきことが多すぎて時間が足りない」「あれもこれも考えてしまい頭の中が混乱している」。このような悩みを訴える人は多い。またそれに拍車をかけるように、近年のテクノロジーの進化によって、私たちは常にアクセス可能であることが求められ、膨大な量の情報にさらされてしまっている。
こうした事態に対処するうえで、多くの人はマルチタスクが解決策になると考えている。しかしその結果はというと、むしろ注意力は散漫し、集中力は続かず、目の前の作業とは何の関係もないことを考えてしまう。それでは当然、望む成果は得られない。
ここでひとつ、理解すべき重要な事実がある。マルチタスクが有効か否か以前に、そもそもマルチタスクというものは存在しないのだ。人間の脳は、一度に複数の事柄に注意を向けることができない構造になっているのである。
一般的に想像されるマルチタスクというのは、実は次々とタスクを切り替える “タスク・スイッチング”に他ならない。タスクの切り替えに必要な時間はわずか0.1秒程度であるため、本人はその切り替わりになかなか気づかないだろう。しかしタスク・スイッチングを繰り返すと、あらゆる弊害に悩まされることがわかっている。
マルチタスクがもたらす弊害の代表例は集中力の低下だ。タスクの切り替えに0.1秒もかからないとはいっても、脳はその度に負担を強いられている。その結果、集中力がどんどん低下していってしまう。
また注意が散漫した状態が続くと、ある知識を別の状況に応用する柔軟性が低下し、脳の記憶力や情報処理能力が低下するとも言われている。
ではこのような弊害があるにもかかわらず、なぜ私たちはマルチタスクを止められないのだろうか。もちろん常に膨大な量の情報に囲まれていることも、理由のひとつとして考えられる。
しかしダメだとわかっていながら、その誘惑に屈してしまうのには別の理由も考えられる。私たち自身が「目新しさ」を渇望しているという説だ。外部からの刺激が入ったとき、その善し悪しにかかわらず脳はアドレナリンを放出する。すると人はどうしても新しいものに目を向けたくなってしまう。
したがってまずは、注意を引く原因を減らすことから始めるべきである。そうすれば本来達成すべき目標にのみ、集中することができるはずだ。
一点集中術、すなわちシングルタスクは目新しい技術ではない。人類がまだ狩りをして生活していた頃は、それこそ1つの作業に集中したからこそ生き延びることができた。つまりシングルタスカーになることは、私たちが本来あるべき心のあり方を取り戻すことなのである。
シングルタスクとは、意識を「いまここ」に向けること、そして一度に1つの作業だけに没頭することだ。作業に専念する時間を決め、その間は他のものに一切意識を移さない。そうすれば強いエネルギーと鋭い集中力が生まれ、確実な成果を生むことができる。深い充実感も得られるだろう。
シングルタスカーになるうえで重要なのは、自分がマルチタスクをしている瞬間を把握することだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる