インドで育成される高度IT人材は、その数もレベルも日本の比ではない。これまではシリコンバレーから発信されるITトレンドが、先進国を経て新興国へ伝わっていた。だが、今ではバンガロールが発信源に加わり、先進国へ情報が伝わる流れに変わっている。
もとはオフショア開発の拠点にすぎなかったバンガロールが、なぜ現在のような発展を遂げるたのだろうか。そこにはシリコンバレーにはない、新興国の側面を色濃く残すインド独特の強みがある。
インドは、貧困などの社会問題が山積するインフラ未整備の国である。多種多様な人種や言語が存在し、価値観がさまざまなため、合意形成は容易ではない。だが、一筋縄ではいかないからこそ、常識を打ち破るアイデアが生まれる。GEヘルスケアの「携帯型の心電図計」がそのよい例だ。
心電図計といえば、通常は病院に設置された高性能なものが一般的だ。だが、ニーズがあったのは電気のないインドの農村部。単に先進国の製品を機能ダウンするだけでは、利用できない。そこでまったく発想を変えてモニターを取っ払い、ボタンがいくつかあるだけのシンプルな設計に作り変えたという。実はこの「携帯できる心電図計」は、先進国の潜在的ニーズを掘り起こし、今では欧米が売上の半分を占めるまでになっている。
バンガロールはインド南部の内陸に位置している。北部や湾岸部は紛争のリスクが絶えない。そのため、航空宇宙や防衛など、重要な研究機関の数多くがこの地に設置された。識字率は高く、技術系大学などの教育機関が多い。優秀な技術系人材が多数輩出され、最先端の研究機関が集まるバンガロールの地に、IT企業が集まってくるのは必然だった。
インド政府によるIT振興策も、IT企業のバンガロール進出を後押しした。その1つが「STPI(Software Technology Parks of India)」だ。通信環境が整備され、優遇税制が適用された。外資系企業もその対象であり、多くのグローバル企業がバンガロールにやってきた。この流れは技術系大学の新設を促すことにもつながった。
IT企業の進出はバンガロールにオフショア開発のニーズをもたらした。インドの人材は若く優秀でありながら、労働コストが極めて低かったからだ。しかも、英語が準公用語で、意思疎通もしやすい。さらには、アメリカ西海岸との13時間30分の時差を活かすことで、飛躍的に業務効率を高められた。
こうしてオフショア拠点としての存在感を高め、技術的ノウハウを蓄積した。ここまでが十数年前までの話である。バンガロールはこれ以降、いかにして世界のIT拠点の中枢となりえたのだろうか。
バンガロールは優れた技術力をもちながら、労働コストは極めて低いという、人材の宝庫である。英語でのコミュニケーションも可能となれば、もはやこれを利用しない理由はない。欧米系の企業から、ソフトウェアのコーディングなどを請け負うオフショア開発の仕事が増える中で、自然とノウハウは蓄積されていく。多様な企業からの仕事を請け負うことで、分野ごとの勘所も培われていく。すると、今後どのようなトレンドが来るのかを察知できるようになり、それに備えて研究開発を進めておくことも可能となる。
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