インド・シフト

世界のトップ企業はなぜ、「バンガロール」に拠点を置くのか?
未読
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世界のトップ企業はなぜ、「バンガロール」に拠点を置くのか?
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インド・シフト
出版社
出版日
2018年03月06日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

インドというのは実に不可思議な国である。新興国にしてIT先進国。社会インフラは未整備にもかかわらず、アンドロイド搭載スマートフォンが普及している。高度IT技術を身につけた極めて優秀な人材の宝庫であり、今やシリコンバレーに勝るとも劣らない。ITトレンドの最先端を行く国であり、グローバル企業の戦略拠点へと変貌を遂げている。

インドの実情を知るにつけ、そのアンバランスさを感じずにはいられない。貧困などの社会問題はいまだ山積したまま、交通事故や犯罪は日常茶飯事。多様性とカオスに包まれた国であり、先進国には真似できないようなイノベーションを次々と生み出している。

そんなインド南部に位置するバンガロールが本書の舞台だ。バンガロールは1990年代以降、IT産業の中心地として発展してきた。オフショア拠点として認知されていたのはすでに過去のこととなり、今では「インドのシリコンバレー」と称されるほどに成長を遂げている。

ITの技術革新が企業経営にとっていかに重要な役割を果たすのか。それはいまさら言うまでもないだろう。だが、日本企業はその重要性の認識が甘いのだと著者は警告する。世界のトップ企業はとっくにインドIT業界との連携を深めている。その舞台がまさにバンガロールなのだ。もはやバンガロールを押さえずして世界最先端のITトレンドについていくことは不可能と言ってよい。すでに出遅れている日本だが、せめて今すぐ本書を手に取ってほしい。インドに学ぶことが、日本独自のイノベーションに通じるかもしれないのだから。

ライター画像
金井美穂

著者

武鑓 行雄 (たけやり ゆきお)
元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長。ソニー株式会社入社後、NEWSワークステーション、VAIO、ネットワークサービス、コンシューマーエレクトロニクス機器などのソフトウェア開発、設計、マネジメントに従事。途中、マサチューセッツ工科大学に「ソフトウェア・アーキテクチャ」をテーマに1年間の企業留学。2008年10月、インド・バンガロールのソニー・インディア・ソフトウェア・センターに責任者として着任。約7年にわたる駐在後、2015年末に帰国し、ソニーを退社。帰国後も、インドIT業界団体であるNASSCOM(National Association of Software and Services Companies)の日本委員会(Japan Council)の委員長(Chair)として、インドIT業界と日本企業の連携を推進する活動を継続している。
慶應義塾大学工学部電気工学科卒業、および大学院工学研究科修士課程修了。2011年6月から2013年5月までバンガロール日本人会会長を務める。
2014年1月、電子書籍『激変するインドIT業界 バンガロールにいれば世界の動きがよく見える』(カドカワ・ミニッツブック)を出版。
email:yukio.takeyari@gmail.com

本書の要点

  • 要点
    1
    バンガロールには、高度IT人材を輩出する教育機関の存在やIT振興策などにより、国内外からIT企業が集まっている。オフショア開発拠点として発展して、今やグローバル企業の戦略拠点へと成長を遂げている。
  • 要点
    2
    トラブルは日常茶飯事というカオスな環境のインドでは、適応力やマネジメント能力が自然と鍛えられる。
  • 要点
    3
    インフラが未整備で貧困などの社会問題を抱えるというインドの状況が、常識にとらわれない自由な発想や、イノベーションが生まれる素地となっている。

要約

なぜ「バンガロール」なのか

インドの特性と強み
shylendrahoode/iStock/Thinkstock

インドで育成される高度IT人材は、その数もレベルも日本の比ではない。これまではシリコンバレーから発信されるITトレンドが、先進国を経て新興国へ伝わっていた。だが、今ではバンガロールが発信源に加わり、先進国へ情報が伝わる流れに変わっている。

もとはオフショア開発の拠点にすぎなかったバンガロールが、なぜ現在のような発展を遂げるたのだろうか。そこにはシリコンバレーにはない、新興国の側面を色濃く残すインド独特の強みがある。

インドは、貧困などの社会問題が山積するインフラ未整備の国である。多種多様な人種や言語が存在し、価値観がさまざまなため、合意形成は容易ではない。だが、一筋縄ではいかないからこそ、常識を打ち破るアイデアが生まれる。GEヘルスケアの「携帯型の心電図計」がそのよい例だ。

心電図計といえば、通常は病院に設置された高性能なものが一般的だ。だが、ニーズがあったのは電気のないインドの農村部。単に先進国の製品を機能ダウンするだけでは、利用できない。そこでまったく発想を変えてモニターを取っ払い、ボタンがいくつかあるだけのシンプルな設計に作り変えたという。実はこの「携帯できる心電図計」は、先進国の潜在的ニーズを掘り起こし、今では欧米が売上の半分を占めるまでになっている。

バンガロール発展の背景

バンガロールはインド南部の内陸に位置している。北部や湾岸部は紛争のリスクが絶えない。そのため、航空宇宙や防衛など、重要な研究機関の数多くがこの地に設置された。識字率は高く、技術系大学などの教育機関が多い。優秀な技術系人材が多数輩出され、最先端の研究機関が集まるバンガロールの地に、IT企業が集まってくるのは必然だった。

インド政府によるIT振興策も、IT企業のバンガロール進出を後押しした。その1つが「STPI(Software Technology Parks of India)」だ。通信環境が整備され、優遇税制が適用された。外資系企業もその対象であり、多くのグローバル企業がバンガロールにやってきた。この流れは技術系大学の新設を促すことにもつながった。

IT企業の進出はバンガロールにオフショア開発のニーズをもたらした。インドの人材は若く優秀でありながら、労働コストが極めて低かったからだ。しかも、英語が準公用語で、意思疎通もしやすい。さらには、アメリカ西海岸との13時間30分の時差を活かすことで、飛躍的に業務効率を高められた。

こうしてオフショア拠点としての存在感を高め、技術的ノウハウを蓄積した。ここまでが十数年前までの話である。バンガロールはこれ以降、いかにして世界のIT拠点の中枢となりえたのだろうか。

戦略拠点への変貌

成長のスパイラル
metamorworks/iStock/Thinkstock

バンガロールは優れた技術力をもちながら、労働コストは極めて低いという、人材の宝庫である。英語でのコミュニケーションも可能となれば、もはやこれを利用しない理由はない。欧米系の企業から、ソフトウェアのコーディングなどを請け負うオフショア開発の仕事が増える中で、自然とノウハウは蓄積されていく。多様な企業からの仕事を請け負うことで、分野ごとの勘所も培われていく。すると、今後どのようなトレンドが来るのかを察知できるようになり、それに備えて研究開発を進めておくことも可能となる。

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要約公開日 2018.06.19
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