日本はすでに人口減少のフェーズに入っている。2015年から2060年にかけて、日本の生産年齢人口は約3264万人減少する。これは世界第5位のGDPを誇る英国の2017年末の就業者数をも上回る、とてつもない規模の数字だ。他の先進国のどこも経験したことのない、未知の世界に日本は突き進もうとしている。
そもそも戦後日本の目覚ましい経済発展の要因は、人口増加にあった。日本はいまだに人口増加を経済の大前提としているが、その大前提はいま崩れようとしている。
人口が減少しても、ロボットやAIの活用、移民の受け入れでなんとかなる、と主張する人もいる。だがこうした主張は、日本の人口減少問題の深刻さを過小評価している。
人口減少によって、今までの常識はすべて崩れ去る。人口激増が可能にした、寛容な社会も、曖昧な制度も、日本的資本主義も、すべて根底から崩れ去るのだ。企業と労働者の関係や政治のあり方も、これまでとはまったく異なるものになると予想される。
「人口減少が起これば日本社会は激変する」と断言するのには根拠がある。これからの日本と同様に、短期間で人口が激減し、社会がガラッと様変わりしてしまった先例があるからだ。
それは欧州で1348年から起こったペストの大流行である。ペストの流行により欧州では人口の約半数が死亡し、社会制度は根本から変わった。650年以上前のこととはいえ、この事例は日本の未来を占ううえで示唆に富んでいる。
当時の欧州で主力産業といえば農業だった。だがその農業も、人口が減ったことで質的変化を余儀なくされる。
まず人口減少により農業に従事できる人が減ったため、放置される農地が増えた。また働き手の不足により、人手のかかる穀物栽培から、それほど人手を必要としない畜産へと移行する動きが活発化。これに伴い肉食が増え、食文化までもが激変した。
畜産の利点は、穀物より付加価値が高いだけでなく、人間一人と犬がいればできることだ。実際に生産性は劇的に向上し、葡萄や野菜、麻などの付加価値の高い作物の生産も増加した。
農業以外でも大きな変化が起きた。需要者が減少したため、価格を下げても商品やサービスが売れなくなったのだ。多くの業者が倒産し、生産量が調整されるまでデフレ化した。
その一方で人口減少により、労働者の待遇は劇的に改善した。労働者の供給が不足したためだ。人口が減りだしてから最初の10年だけを見ても、男性労働者の年収は1.8倍に増えている。
しかも物価は安定していた。所得が増えたにもかかわらず、インフレが起きなかったからだ。付加価値の高いものやサービスが売れるようになり、以前は贅沢品だったものが普通に買えるくらい、生活水準が大幅に上がった。
この例からもわかるように、人口減少社会で必要なのは、変化を受け入れ、働き方や産業構造を変え、必死で生産性を向上させることだ。経済の大前提が崩れ去った時代において、変化を恐れる姿勢は、座して死を待つ以外のなにものでもない。
人口減少問題は、複雑な要素がいくつも絡まっていて、なかなかその実態が見えてこない。
これをシンプルに捉えるために、本書では次のような手法で分析をおこなう。日本経済のGDP総額と、日本人の生産性を固定するのだ。ここでいう生産性とは、購買力調整済みの1人あたりGDPを指す。生産性を固定するということは、いまの仕事のやり方、社会の有り様を一切変えないということだ。これを前提に、経済への影響を考えてみる。
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