新・生産性立国論

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新・生産性立国論
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2018年03月08日
評点
総合
4.2
明瞭性
5.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書の主張は非常にシンプルだ。日本ではこれから生産年齢人口が激減する。現在のGDP規模を維持するためには、生産性を向上しなくてはならない。これだけである。だが読み進めていくうちに、いかにそれが大事な提言なのか、よくわかってくるだろう。

これから日本が直面する人口減少は、他の先進国が経験したことのない規模のものになる。移民の導入や高齢者の労働参加では、とうてい補填できない。しかし現在のGDP規模を維持しなくては、日本政府は社会保障や借金の負担に耐えられなくなる。そこで重要なのが、生産性の向上というわけだ。

著者は英国に生まれ、オックスフォード大学で日本学を専攻した後、金融業界でキャリアを積んで来日。現在は文化財修復を専門とする会社の経営者で、裏千家の茶道家でもあるというユニークな経歴をもつ。

自己満足な「高品質・低価格」の商品、女性活用の遅れ、無能な企業経営者たち――日本経済の生産性の低さに関する著者の指摘には、私たちにとって耳の痛い話も多い。だがそれはすべて、日本経済の復活を願うからこその提言だ。母国を離れ、日本に住むことをみずから選んだ著者は、ある意味では日本人以上に、日本という国のことを思っている。

人口減少は刻一刻と進み、私たちに残された時間は少ない。本書を通じて、避けては通れない日本社会の現実と、しっかりと向き合ってみてはいかがだろうか。

著者

デービッド・アトキンソン (David Atkinson)
小西美術工藝社代表取締役社長。三田証券社外取締役。元ゴールドマン・サックス金融調査室長。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年に同会長兼社長に就任。日本の伝統文化を守りつつ、旧習の縮図である伝統文化財をめぐる行政や業界への提言を続ける。2015年から対外経済政策研究会委員、2016年から明日の日本を支える観光ビジョン構想会議委員、2017年から日本政府観光局特別顧問などを務める。2016年に財界「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『国宝消滅』『デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論』『世界一訪れたい日本のつくりかた』(いずれも東洋経済新報社)、『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』(講談社+α新書)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    これから日本は深刻な人口減少に直面する。2015年から2060年にかけて、日本の生産年齢人口は約3264万人減少する。
  • 要点
    2
    この人口減少は、移民の受け入れや高齢者労働などだけでは、とうてい補えない規模だ。
  • 要点
    3
    生産年齢人口の減少により経済規模の縮小が予測されるが、政府債務残高と社会保障費の負担のためには、現在の535兆円のGDP規模を維持しなくてはならない。
  • 要点
    4
    減少した生産年齢人口で経済規模を維持するためには、女性の活用、賃金の引き上げなどによる生産性の向上が不可欠である。

要約

人口減少はすべてを変える

かつてない規模の人口減少
Gearstd/iStock/Thinkstock

日本はすでに人口減少のフェーズに入っている。2015年から2060年にかけて、日本の生産年齢人口は約3264万人減少する。これは世界第5位のGDPを誇る英国の2017年末の就業者数をも上回る、とてつもない規模の数字だ。他の先進国のどこも経験したことのない、未知の世界に日本は突き進もうとしている。

そもそも戦後日本の目覚ましい経済発展の要因は、人口増加にあった。日本はいまだに人口増加を経済の大前提としているが、その大前提はいま崩れようとしている。

人口が減少しても、ロボットやAIの活用、移民の受け入れでなんとかなる、と主張する人もいる。だがこうした主張は、日本の人口減少問題の深刻さを過小評価している。

人口減少によって、今までの常識はすべて崩れ去る。人口激増が可能にした、寛容な社会も、曖昧な制度も、日本的資本主義も、すべて根底から崩れ去るのだ。企業と労働者の関係や政治のあり方も、これまでとはまったく異なるものになると予想される。

過去の事例に学べ

「人口減少が起これば日本社会は激変する」と断言するのには根拠がある。これからの日本と同様に、短期間で人口が激減し、社会がガラッと様変わりしてしまった先例があるからだ。

それは欧州で1348年から起こったペストの大流行である。ペストの流行により欧州では人口の約半数が死亡し、社会制度は根本から変わった。650年以上前のこととはいえ、この事例は日本の未来を占ううえで示唆に富んでいる。

人口減少と生産性の向上
Chananchida/iStock/Thinkstock

当時の欧州で主力産業といえば農業だった。だがその農業も、人口が減ったことで質的変化を余儀なくされる。

まず人口減少により農業に従事できる人が減ったため、放置される農地が増えた。また働き手の不足により、人手のかかる穀物栽培から、それほど人手を必要としない畜産へと移行する動きが活発化。これに伴い肉食が増え、食文化までもが激変した。

畜産の利点は、穀物より付加価値が高いだけでなく、人間一人と犬がいればできることだ。実際に生産性は劇的に向上し、葡萄や野菜、麻などの付加価値の高い作物の生産も増加した。

農業以外でも大きな変化が起きた。需要者が減少したため、価格を下げても商品やサービスが売れなくなったのだ。多くの業者が倒産し、生産量が調整されるまでデフレ化した。

その一方で人口減少により、労働者の待遇は劇的に改善した。労働者の供給が不足したためだ。人口が減りだしてから最初の10年だけを見ても、男性労働者の年収は1.8倍に増えている。

しかも物価は安定していた。所得が増えたにもかかわらず、インフレが起きなかったからだ。付加価値の高いものやサービスが売れるようになり、以前は贅沢品だったものが普通に買えるくらい、生活水準が大幅に上がった。

この例からもわかるように、人口減少社会で必要なのは、変化を受け入れ、働き方や産業構造を変え、必死で生産性を向上させることだ。経済の大前提が崩れ去った時代において、変化を恐れる姿勢は、座して死を待つ以外のなにものでもない。

【必読ポイント!】人口減少は「生産性」向上でしか補えない

人口減少の経済へのインパクト

人口減少問題は、複雑な要素がいくつも絡まっていて、なかなかその実態が見えてこない。

これをシンプルに捉えるために、本書では次のような手法で分析をおこなう。日本経済のGDP総額と、日本人の生産性を固定するのだ。ここでいう生産性とは、購買力調整済みの1人あたりGDPを指す。生産性を固定するということは、いまの仕事のやり方、社会の有り様を一切変えないということだ。これを前提に、経済への影響を考えてみる。

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要約公開日 2018.06.26
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