各国政府の思惑とグローバル市場の連携性が絡み合った結果、市場はある種の脆さをもつようになった。それが「ニュー・ノーマル経済」だ。企業は経営に多大な影響を及ぼすリスクに、数多く直面することになる。ビジネスリスクを高めている重要な要因として、次の7つが挙げられる。
第1の要因は、技術の進歩と情報革命である。これらは情報過多を招き、さらなる乱気流(位置組織の内外で起こる予測困難なすばやい変化)やカオスを引き起こす。
第2の要因は、破壊的テクノロジーと破壊的イノベーションだ。こうしたテクノロジーをもつ企業は業界の勢力図を一変させ、カオスを生み出す「ゲーム・チェンジャー」となる可能性を秘めており、乱気流を追い風として成長する。
第3の要因は、非欧米諸国の台頭である。なかでも目立っているのが、いわゆるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)および資金力のある中東諸国だ。『ニューズウィーク』国際版編集長のファリード・ザカリアによると、世界はいまや「現代史で3番目に大きなパワーシフト」の時代に入りつつあるという。
第4の要因は、超過当競争である。技術や売りものが根本から変わると、基準やルールが流動的になり、それまでの競争優位性は時代遅れとなる。もっとも成功している企業とは、この乱気流とカオスのさなかに、競争の場を次々と移していける企業ということになるだろう。
第5の要因は、政府系ファンドである。国が所有する投資ファンドは、2000年以降激増した。新興国のファンドによる欧米市場への投資を“攻撃”とみなす、愛国主義と保護貿易の鬱積した感情が、経済の乱気流をもたらすかもしれない。
第6の要因は、環境問題だ。どの企業も少ない天然資源を大切に使い、汚染を減らし、地球温暖化を防ぐように強く求められている。こうした要求で、ビジネスコストは必然と上がる。
第7は、顧客とステークホルダーの発言力の高まりだ。彼らはマーケティング活動において、もはや受け身の存在ではない。口コミには、大きな乱気流とカオスを生み出すポテンシャルがある。
いま必要なのは、乱気流に直面しても機能する、新しい戦略のフレームワークだ。ビジネスにおける乱気流はもはや避けられない。だがそれにどう立ち向かうかは、みずからの意志で選ぶことができる。
多種多様なリスクが頻発する世界にあって、効果を発揮するのが「カオティクス・マネジメント」だ。カオティクス・マネジメントでは、(1)早期にアラームが上がる仕組みを作ること、(2)キーシナリオを作ること、(3)シナリオの優先順位づけをおこない、状況に即して選択をすること、という3つの手順が重視される。
いずれにせよ重要なのは、こうした検討プロセスのなかで、企業の経営参画者の誰もが納得できる戦略にたどり着くことだ。
ここからは米国自動車会社のビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)が救済要請をおこなう5年前にさかのぼったと仮定して、実際のカオティクス・マネジメントの手順を見ていこう。
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