チャネルシフト戦略とは何か。それは、オンラインを基点としてオフラインに進出し、顧客とのつながりを創り出すことによって、マーケティング要素全体を変革しようとする戦い方である。こうした動きに対抗するには、チャネルの認識を「販売の場」から、「顧客とのつながりをつくる場」へと変えなければならない。
アマゾンはオンラインに軸足を置く企業である。しかし現在は、オフラインにおいても次々とチャネルを設け、顧客を取り込んでいる。顧客の自宅ではAmazon DashやAmazon Echoを、リアル店舗としてはAmazon GoやAmazon Booksを展開。さらに2017年には、高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収している。
これらは単なる「販路の多様化」ではない。ネットとリアルを融合させたチャネルを通して、顧客の行動データを収集する。そのデータを使って、販促・価格・商品のすべてを「個客」ごとに最適化するのがアマゾンの狙いだ。これこそチャネルシフト戦略である。
2016年12月、アマゾンはAmazon Dashというボタンを日本で導入し始めた。飲料や洗濯洗剤、おむつなどの特定銘柄を、ボタンを押すだけで購入できるというものだ。
Amazon Dashはプライム会員のみ使用できる。対象商品は、日用品を中心に約20カテゴリ・130種類以上のブランドに及ぶ。これまではアマゾンユーザーでも、洗剤などの日用品は近所のドラッグストアに行って、複数の商品を比較して購入することが多かった。しかし、Amazon Dashを使用して事前に銘柄を登録すれば、商品を探し、比較することすらなくなる。つまり顧客を全面的に囲い込めるというわけだ。
Amazon Booksはアマゾンが展開するオフラインのブックストアである。特徴は、本の表紙が見えるように面置きされている点だ。店舗には選抜された本のみが並んでいる。本に価格は表示されていない代わりに、商品コードが記載されている。顧客はスマートフォンで商品コードをスキャンすれば、オンラインで価格やレビューを確認できる。オンラインでも購入できるし、レジカウンターで本を購入し、持ち帰ることも可能だという。
さらにプライム会員の場合、オフライン店舗での購入であっても、オンラインと同じ優待価格で購入できるというから画期的だ。
チャネルシフト戦略では、オンラインとオフラインを柔軟に「組み合わせて」戦う発想が求められる。そのためにはチャネルがどのように進化してきたのか、その変遷を知ることが大切だ。
チャネル形態は時系列で「シングルチャネル」、「マルチチャネル」、「クロスチャネル」、「オムニチャネル」と変遷してきた。まず、「シングルチャネル」は店舗を1つだけ持つ手法だ。「マルチチャネル」は複数の店舗を持つ手法である。たとえば、地域の顧客には実店舗で販売し、遠方の顧客にはオンライン店舗で販売するといった形だ。店舗ごとにそれぞれ対象顧客が異なり、顧客管理も別になる。
これに対し、「クロスチャネル」は、同じ顧客が使い分けられる店舗を複合的に提供する手法だ。同一の顧客が週末はスーパーのオフライン店舗で買い物をし、平日にはそのスーパーのオンライン店舗をモバイルから使用するといったイメージである。これも顧客管理は店舗ごとに異なる。
そして、「オムニチャネル」は、ネットとリアルの融合を進めて、店舗を横断して顧客を管理できるようにする手法である。あらゆるチャネルを統合し、消費者にシームレスなショッピング体験を提供する。
オムニチャネル化の背景には、スマートフォンの普及がある。スマートフォンがあれば、あらゆる場所であらゆる情報にアクセスし、あらゆる店舗を選択してあらゆるものを購入できる。たとえば、家電量販店の店頭で商品を試し、価格コムでレビューを見て、アマゾンで購入するといったように、1つの店舗で選択から購入まで完結しなくなるのだ。このように、オムニチャネルの本質は顧客の購買行動の変化にある。
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