かつて、グローバル化の繁栄は民主主義への道であるように見えた。だが、2008年の金融危機が米国から世界へと広がった影響で、新興市場の台頭は終わりつつある。
財政危機後、政治的自由が衰え、BRICsともてはやされたブラジル、ロシア、インド、中国のうち、インド以外は不振に陥っている。経済学者によると、これらの国の発展はもはや確実ではないようだ。ロシアとブラジルの経済は縮小している。中国は景気後退期ではないが、年率14%から年率5%未満の成長減速を経験している。
以前なら一時的な不況に陥っても、循環によって再び回復に向かうことが期待できた。しかし現在は、こうした循環論が通用しない時代になった。景気後退が長期化し、不況の谷が深まると、労働者の技能が破壊され、企業は連鎖倒産に追い込まれる。製造業の生産能力には、大きな損失が発生する。それが景気後退をさらに深刻にする。2008年金融危機後の経済停滞では、こうした負のスパイラルが新たな脅威となっているのだ。
現在では、高度成長がいかに持続困難かということは広く知られている。では、有為転変の世界で、繁栄する国や没落する国を予想するには、どうしたらよいのか。本書では、10の評価基準が述べられている。その基準を活用すれば、ある国が上昇気流に乗っているのか、それとも落ちこぼれつつあるのか、あるいは何とか危機を切り抜けつつあるのか、などが把握できる。
著者は、過去25年の証券調査活動でこれらの評価基準を得た。これらは1つの体系としてうまく機能している。結論を言えば次のようになる。まずは経済危機の最悪期を脱し、国際的な金融市場やメディアの要警戒リストからも外れる。そして、政治面では改革意識に燃えた民主的リーダーが登場すると、経済の持続的な成長が始まる。改革派リーダーによってビジネス環境が整備され、工場設備や道路、科学技術などへの生産的な投資が拡大すれば、供給サイドが強化されインフレも抑え込まれる。
しかし経済が豊かになると、民間の企業や個人が、特に海外の高級奢侈品を求めて無秩序に借金をするようになる。そうなると好景気もいよいよ終盤に近づく。やがて海外からの借金返済が滞り始め、一部の大金持ちと一般の人々、中央と地方の経済格差が拡大する。その結果、政治への不満が高まり、旧体制が打倒され、再び新しいサイクルが始まる。
世の中は有為転変だ。よって、経済予測では遠い未来を対象にしてはならない。経済成長に影響を及ぼす景気や技術、政治のサイクルは、5年周期が一般的だ。そのため、経済予測が5~10年を超えると、その信頼性が大幅に低下する。長期的な経済成長に重要な影響を与える要素はたくさんある。本書ではそれらに言及するのはあえて避けた。変化のサインとしてうまく機能しないからだ。
本書の目的の1つは、予測の照準を遠い未来から現実味のある5~10年先にシフトさせることだ。20~100年先の予測が的中することなどありえない。なぜなら、予測してから5年以内に想像を超えた競争者が現れて、過去のトレンドをひっくり返してしまうからだ。第二次世界大戦後、1人当たりGDPの年間伸び率が6%を上回った「超高速」の成長が長く続いた事例が28ある。それを見ると、持続期間は平均で10年未満だった。こうしたことを踏まえて、本書は、実務家が国家の盛衰をリアルタイムで見抜くための手引書となっている。
著者は、国家の盛衰を見抜くための10の評価基準を挙げている。
第1に、人口構成。生産年齢人口の増減に関する将来予測を調べ、将来の成長に向けた底力がどれだけ涵養されているかを調べてみることだ。
第2に、政治。危機の直後に新たな指導者が登場すれば、改善に向かう可能性が高まる。一方、堕落した指導者が権力の座に居座り続ければ、国の将来はますます暗くなる。
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