物流は世界史をどう変えたのか

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物流は世界史をどう変えたのか
出版社
出版日
2018年01月29日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

今年はじめ、米アマゾンの宅配事業への参入が発表された。今後は各企業から集荷した商品を、直接顧客へ届けるサービスを開始するとのことだ。EC最大手が物流を手中にすることで、宅配業界はもとより、さまざまな方面に影響を及ぼすことは明らかである。

物流を制する者は世界を制す。これはいまに始まった話ではなく、はるか紀元前より世界中のあらゆる文明でそうだったと著者は語る。歴史の授業では普通、覇者は武力や新技術によって勢力を広げていったと教えられる。しかしその裏には「物流」というシステムがあり、それが世界の勢力図を塗り替える大きな要因であった。そのことをあなたは本書を通じて知ることになるだろう。

本書は全17章構成だ。紀元前に地中海の覇者となったフェニキア人から、中国の漢、近世イタリア、大英帝国、独立後のアメリカにいたるまで、時系列でテンポよく紹介されている。各章は比較的短く、さらっと読めるので、興味のある章からかいつまんで読んでもおもしろいだろう。しかし一時は強大であった国家がなぜ衰退し、その覇権が他へ移ったのか。その流れを理解するには、はじめから読み進めることを強くおすすめする。

本要約では本書のハイライトの一部を紹介したにすぎない。ぜひ本書を手に取って、壮大な歴史のうねりを体感してほしい。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

玉木 俊明 (たまき としあき)
京都産業大学経済学部教授。大阪市生まれ。1987年同志社大学文学部文化学科卒。93年同大学院博士課程単位取得退学。96年京都産業大学経済学部講師、2000年助教授、07年教授。09年『北方ヨーロッパの商業と経済1550-1815年』(知泉書館)で大阪大学博士(文学)。
著書に『近代ヨーロッパの誕生』『海洋帝国興隆史』(以上、講談社選書メチエ)、『ヨーロッパ覇権史』(ちくま新書)、『先生も知らない世界史』(日経プレミアシリーズ)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    いついかなる時代も、完全な自給自足はありえない。だからこそ人々は物を交換して生きてきた。物流の発展に目を向けることが、グローバリゼーションを理解するカギとなる。
  • 要点
    2
    ローマ帝国が地中海をまたぐ大帝国に発展したのは、フェニキア人が開発した物流ルートを利用できたからだ。
  • 要点
    3
    文字や通貨の統一、国家による経済介入など、古代中国には現代のEUの理念につながる国家システムがあった。
  • 要点
    4
    大英帝国が覇権を握った最大の要因は、産業革命ではなく1651年の航海法制定にある。

要約

ローマの繁栄は1日にしてならず

貿易で地中海の覇者となったフェニキア人
Hemera Technologies/iStock/Thinkstock

紀元前、まだローマ帝国が覇権を握る前に、地中海域で栄えた民がいた。それがフェニキア人だ。

フェニキア人はクレタ文明、ミケーネ文明が後退した前1200年頃より、交易と海運業を営み活躍していた。彼らは古代アルファベットをもとに、現在のアルファベットの基礎となる線状文字を作り、さまざまな民族と意思を通じ合わせて交易をおこなっていた。

東地中海岸を根拠地とするフェニキア人は、前12世紀には地中海の物流をほぼ独占。交易範囲は広がり、全盛期には西アフリカや紅海を経て、インド洋にまで及んだという。

彼らはレバノン杉(現在のレバノンに生えていた杉)を商材に海運事業を発展させ、地中海域にいくつも都市国家を築いた。なかでも有名なのは、東地中海岸にあるシドン、ティルスである。ティルスはイスラエルと友好的な関係にあった。とくにソロモン王の時代(前10世紀頃)、ユダヤの神ヤハウェの神殿建設に向けて、フェニキア人は建設資材である良質のレバノン杉を大量に提供。イスラエルとより強固な関係を築きあげた。

フェニキア人の物流ルートを利用したローマ

ティルスは前8世紀、植民市カルタゴを建設した。カルタゴは現在のチュニジア共和国のチュニス付近にある、ティルスのなかでもっとも重要だった植民市である。地中海貿易網の中央部にあるカルタゴは、前6世紀には貿易の中心地となった。前4世紀にティルスがアレクサンドロスに征服された際には、多くのティルス市民が移住し、それからは商業国家としても繁栄した。彼らの物流は遠く北海にまで達したという。

カルタゴはさらにシチリア島など、現在のイタリアの諸島にも手を伸ばした。だがその結果ローマと対立し、ポエニ戦争(前264~前146)が勃発。三度の戦いでいずれもローマが勝利し、西地中海はローマの手に墜ちた。

ローマ勝利後、アフリカ北岸はローマ領となり、多くの奴隷がイタリアに運ばれた。さらにアフリカの属州から穀物を輸入するようになったのだが、このルートはおそらくカルタゴの物流システムを受け継いだものだろう。当時のヨーロッパには航路というものがなく、さらには造船技術や航海技術もなかったからだ。ローマが地中海をまたぐ帝国に成りえたのは、フェニキア人の物流ルートを利用できたからに他ならない。

インド洋の物流を担ったムスリム
hatipoglu/iStock/Thinkstock

622年、ムハンマドにより創始されたイスラーム教は、あっという間に周辺地域へ広まった。ムハンマドの後継者による「正統カリフ時代」には、ジハード(聖戦)がくりかえされ、その範囲はシリア、エジプト、イランにまで及んだ。

この急速な発展の裏には、ムハンマド時代とは異なり、部族的な結びつきが否定され、人間の平等が説かれたことがある。さらに後のアッバース朝(750~1258)になると、それまであったアラブ人の特権も廃止され、民族を問わない世界宗教に成長した。

アッバース朝は最盛期、中央アジアまで領土を広げ、インド洋の物流も支配するようになった。ムスリム商人はダウ船と呼ばれる帆船でインド洋を航海。香辛料、金、宝石、木材、象牙などをインド洋周辺の熱帯諸地域からもち帰り、それらと引き換えに自国や地中海沿岸で取引された衣料、敷物、陶器などをもちこんだ。

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要約公開日 2018.08.10
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