人類は一般的に白人、黒人、黄人の3種に区分され、このうち日本人は黄人に分類される。しかしこの分類において、インド人やアラブ人はどこに該当するのか判断できるだろうか。彼らのなかには、肌の白い人も黒い人もいる。
この3種類の分け方は、肌の色のみを見て分類したものにすぎず、学術的な定義もない。そのためインド人やアラブ人が3つのうちどれにあてはまるのかという問題には答えられないのだ。
遺伝学では、人種は現在4種類に分類されている。コーカソイド、モンゴロイド、ネグロイド、そしてオーストラロイドだ。ただしこれら4種類のDNA染色体が物理的に区別できるわけではない。どんなに純粋な日本人にも、コーカソイドやネグロイドの遺伝的特性が混在しており、ある人種を決定づける特定のDNAの型は存在しない。
私たちは普段、アメリカ人、日本人、中国人というように、「○○人」という言葉をよく使う。この「○○人」という言葉は、生物学的なカテゴリーである「人種」、言語・文化・慣習など社会的なカテゴリーである「民族」、国家が定める法や制度を共有する「国民」という、異なる視点の分類系を含んでいる。同じ「○○人」という言い方でも、日本人が民族的同一性を重視する一方で、アメリカ人は国民的統一性を前提とするなど、その集団が形成された歴史的背景によって、ニュアンスや条件は大きく異なる。
「民族」を語るうえでは血統・血脈が切り離せない要素だ。そしてそのことを私たちは感覚的に認識しているからこそ、そこにはどうしても禁忌のイメージがつきまとうのである。
民族のルーツを辿るためには、使用する言語とその形成過程を追うことが欠かせない。「アルタイ語族」や「インド・ヨーロッパ語族」などに使われる「語族」という表記は、同一の祖先から分かれ出たと考えられる言語グループを意味する。
民族の分類を考えるうえで、同じような言語を使う複数の民族が、共通の祖先から派生したものであると捉える。そうすれば血縁関係や民族の血統について、遡及的に想定できる。そういう意味で言語は民族の「歴史的血統書」といえるだろう。
古代中国は黄河流域から発祥し、黄河文明を形成した。この文明が発展し、紀元前16世紀に殷王朝が成立する。殷王朝は現在確認されている最古の王朝であり、この時代に漢字が作られた。また南方の長江流域は黄河流域と異なる社会・文化を形成していたが、漢字が普及することによって両流域の共通言語基盤ができあがり、中国というものの原型が誕生する。
中国とは漢字を使う諸民族とその領域・社会・文明を指すものであり、中国人は多民族の集合・混合といえる。それぞれの民族の顔つき、風習、気質は異なっていても、漢字という共通の言語基盤を持つ集合体なのだ。
中国は人間が社会を形成するとき、言語によって形成され、発展した代表的な例である。このことからも、人間社会と言語がいかに密接なのかが理解できるだろう。
4世紀から7世紀にかけて、朝鮮の渡来人が大量に日本へやってきた。このとき人口が数百万人増加したとされている。渡来人は大和政権の中枢を担ったが、公職者や技術者として迎えられたのはごく一部であり、多くは奴隷として強制的に連行されたものといわれる。
3,400冊以上の要約が楽しめる