高齢世代が組織の重要ポストに居座って、実権を譲ろうとしない。そのせいで、若い人が活躍するチャンスがやってこない――。この現象が日本経済においても、より広範囲に「みんなの成長」を妨げている。
この象徴的な事例が、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)の現・名誉顧問、鈴木敏文氏の電撃退任だ。セブン&アイの取締役会で、鈴木氏はセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長の退任を強く求めた。しかし、井阪社長のもとで業績は大きく伸びていることもあり、取締役会の承認は得られず、井阪社長の続投が決まった。鈴木氏は退任を表明する会見で、恨み言を並べた。さらに衝撃的なことには、井阪社長の社長続投を阻止するよう、井阪社長の父親に進言していたという。
井阪社長はすでに還暦近い経営者である。だが、退任当時83歳だった鈴木氏にとっては、自分たちのような「大人」がついていないと、経営など任せられないと思っていたのかもしれない。
このように、高齢世代が重要ポストに居座り、企業の新陳代謝を阻んでいる。そして日本企業は、旧来型の発想から抜け出せずにいる――。これを著者は「GG資本主義」と名づけた。
GG資本主義が与える影響力の大きさは、データからも明らかとなっている。まず、日本企業の社長の平均年齢は、上昇の一途をたどっている。2017年時点で59.5歳だという。また、個人の消費活動に目を転じると、消費で存在感を放っているのも60歳以上である。2015年の消費シェアに占める30~39歳の割合は、たった9.9%にすぎない。40~49歳ですら19.8%だ。一方、60歳以上は47.8%にものぼる。
つづいて、各資産の保有者の割合を年代別に見ると、60歳以上の保有率が金融資産で68.8%、土地保有で56.4%である。他の世代に比べて圧倒的に高いことから、安心して消費できる人が多いことも頷ける。このように、会社経営、消費のいずれにおいても、60歳以上が経済に与えるインパクトはかなり大きい。
ただし、問題は高齢者ではなく、GG資本主義という「構造」にある。著者はファンドマネージャーとして、7000人近くの社長を取材した。実際に会社に足を運び、投資判断をしてきた。そこで判明したのは、「若い人に会社を任せればうまくいく」という、シンプルな事実だ。
上場企業を社長の年齢別にグループ分けして、3年間の株価のパフォーマンスと売上高の変化率を見てみよう。すると、60代以上が社長を務める会社より、30代、40代が社長を務める会社のほうが、売上高の伸び率も、株価の上昇率も高い。もちろん、上場したてのベンチャーなど、会社自体も若く、急成長しているところが多いというのもあるだろう。とはいえ大企業であっても、トップの若返りで業績が伸びることは多い。通常、若い人ほど時代の流れに乗りやすく、柔軟な発想ができる。経営陣の若さは強みの1つなのだ。
よって、企業のパフォーマンス向上はもちろん、経済・社会の成長のためにも、権限と責任を若い世代に託すことが欠かせない。
GG資本主義がはびこるようになった背景は何か。それは、日本人のサラリーマン体質によって、「オーナー・シップ(当事者意識)」が欠如していることだ。
欧米では、株主が創業者の代理人として、承継者にオーナー・シップを促し、経営を任せる。ストック・オプションなどの株式報酬にも、この発想が現れている。業績を上げれば莫大な利益を得られる。かわりに、失敗したら容赦なく交代させられる。そのため承継者は、当事者意識をもって業績を伸ばそうと必死になるというわけだ。
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