著者の岡田克彦氏はAIの専門家ではなく、もともと日米の金融機関でトレーダーをしていたという経歴の人物だ。岡田氏は相場を動かす「ざわつき」の正体を解明したいという思いから大学院で金融経済学を修めた後、ビッグデータの解析に関する研究プロジェクトに参画し、金融分野に応用する研究を担当した。
そしてビッグデータやAIを株取引に活用する企業を立ち上げ、ニュースなどから株価を予測するアルゴリズムを開発したのだが、ベンチャー企業ではデータ収集の規模にも限りがある。そんな時に声をかけてきたのがヤフーだ。ヤフーは資産形成事業をはじめるにあたり、有力なパートナーを探していた。とんとん拍子に話は進み、岡田氏の投資会社には、ヤフーがさまざまなサービスから収集してきたデータが、数十枚のDVDに焼かれて提供された。
「これで日本の金融界を支配できるで!」ヤフーのビッグデータの威力に、岡田氏の会社は騒然となった。提供されたデータを株価予測のアルゴリズムにかけてみると、岡田氏の会社で独自に収集したデータから得られたものとは、精度が段違いだったのだ。
しかし株価予測は、ビッグデータとAIがあればすべて解決するほど単純な問題ではない。ある画像を見せて「ネコかどうか」を識別させるような問題であれば、AIは学習によって、非常に高い精度で判断することができる。一方で株価予測の場合、そううまくはいかない。「ネコかどうか」を識別するポイントはどんな画像でもそれほど変わらないが、人間は同じ条件下でも、かならず同じ行動を取るとは限らないからである。
グーグルはAIでインフルエンザの流行予測をおこない、1年目は見事に的中させたが、2年目はまったく当たらなかった。AIといえども、人間の行動の予測は非常に難しいのである。
ビッグデータの分析には、「こういう法則性があるはずだ」という仮説を立てず、大量のデータそのものから法則性を見つける「データ中心アプローチ」という手法がある。しかしこの手法は株価予測では通用しない。株価はコイン投げと同じく、それまでの履歴から将来を予測できない「ランダムウォーク」だからだ。
では株価予測にAIを使うことが無駄かといえばそうではない。ポイントは株価そのものを予測するのではなく、投資家の心理を予測することにある。株価は「年の前半に上がり、後半に下がる」傾向が強いといわれる。また「月曜日の株価は、金曜日より悪い」という傾向もある。
こうした経験則をもとに、曜日、温度、湿度、天候などを取り込んだビッグデータを生成し、AIを使って精密に実証すれば、値上がりの可能性が高い銘柄ばかりを仕込むことも可能となる。
投資家はどんなときも不安でいっぱいだ。まして大事件や大災害が起こったときは、「セオリー通りなら暴落するはずだ」と思っても、その判断に自信をもてない。起こった出来事が大きければ大きいほど、他の投資家の行動をマネするようになってしまう。
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