モノづくりベンチャーが研究やビジネスのタネを探す際、どこに目をつければいいのか。
まずは、バイオベンチャー、ユーグレナの事例を紹介する。丸氏の大学時代の友人、出雲充氏は、世界で初めてミドリムシの食用屋外大量培養に成功した。そして、ユーグレナ社の一部上場までこぎ着けた。
出雲氏はミドリムシにこだわっていたわけではない。そもそも当初は、ミドリムシの存在すら知らなかった。起爆剤になったのは、自身のバングラデシュでの経験から生まれた、「人類を飢えから救いたい」という強い想いだった。
手持ちの技術・知識(シーズ)ありきで事業を進めても、まずうまくいかない。また、単なるニーズに応えるだけでも不十分だ。大事なのは、「これをなし遂げたい」という「熱い目的・課題」を見つけることである。
「リバネス」が手掛ける事業の柱の1つは、世界の課題解決ができる人を探し当てることだ。丸氏が重視するのは「QPMIサイクル」である。個人に、クエスチョン(Q=課題)とパッション(P=熱)がない限り、メンバー(M)とミッション(M)は集まらない。これらがすべてそろうと、イノベーション(I)が生まれやすくなる。
ユーグレナの場合は、出雲氏が大きな課題と情熱をもっていた。そこに、事業化をめざす人と研究者をつなげる役割の丸氏と、藻類を使った培養の専門家である鈴木健吾氏が引き寄せられた。これが発端となり、日本の3人の最先端研究者が、解決すべきテーマについて一緒に考えてくれるようになったのだ。
ベンチャーをはじめるにあたり、起業と創業、いずれをめざすのかは区別したほうがよい。起業の場合は、すでにビジネスモデルが確立されている。例えば、飲食店の経営をする、IT系ベンチャーを旗揚げするといったことだ。将来、そのビジネスを売却してお金にしてもいいと考えるのなら、丸氏は断然「起業」をすすめる。また、本来やりたい事業があって、そのための資金を確保したい場合にも、起業が適しているという。
一方、「創業」は「新たな業を創る」ことを指す。モノづくり系ベンチャーでは、「創業」タイプが多くなる。一例として、丸氏が投資をした、孤独の解消ロボット「OriHime」を開発するオリィ研究所を挙げよう。このロボットは手を動かすだけで、足もない。そのため人間に運んでもらわないといけない。物ももてず、愛嬌もなく、何らかの実用的機能もない。おまけにレンタル料は月2、3万円。しかし、利用者は涙を流して喜び、ロボットの注文がひっきりなしにくるという。これこそ、誰も試したことのない、新たなロボット事業の「創業」といえる。
ベンチャーをはじめるなら、中核を担う創業メンバーを3人以上集めることが必要だ。これをクリアしたら、そのベンチャーが取り組む課題、熱をチームで明らかにし、長期的なミッションを掲げる。最初にゴールが明確に描けていればいるほど、達成までの長い道のりも苦ではなくなる。
丸氏がベンチャーを支援するうえで重視するのは、次の2点だ。1つ目は、どれだけスケールの大きな夢を明確に語れるか。そして2つ目は、その「夢」に対してどれだけ泥臭い第一歩を踏み出せるかである。
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