物語を忘れた外国語

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物語を忘れた外国語
出版社
出版日
2018年04月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

外国語学習といえば、単語を暗記し、文法を習得して、検定試験で高いスコアを取ることがよしとされる風潮がある。自分の英語力を示すことを目的として、TOEICに向けて猛勉強するのはいいが、いったいそれは楽しいのだろうか。

本書の著者は、外国語の面白さをユーモアたっぷりに綴る著作の数々で知られる、黒田龍之助氏だ。彼は、「検定試験漬けで会話至上主義の空虚な外国語環境に潤いを与えてくれるのは、誰が何といおうと物語しかない」と主張する。物語といっても、原書だけではなく、日本文学の外国語訳でもよい。分からないままに読み進める長編小説でもよいし、映像が理解を助けてくれる映画でもよい。それも含めて、楽しい外国語学習なのである。

物語を通して、外国語学習者はさまざまな気づきを得ることができる。たとえば松本清張の『点と線』の英訳では、いかにも日本語的な表現が登場したり、登場人物がお茶漬けらしきものを食べる場面があったりするという。こうした地域の特性を見いだすことができるのも、物語ならではの面白みであろう。

本書は、外国語学習をとにかく楽しんできた著者による、外国語学習の新たな指南書だといえるだろう。「自発的に外国語学習に取り組むのであれば、何を読もうが、どう勉強しようが勝手」だと著者はいうが、きっとあなたも物語を楽しんでみたくなること請け合いだ。

著者

黒田 龍之助(くろだ りゅうのすけ)
1964年生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科卒、東京大学大学院修了。東京工業大学助教授(ロシア語)、明治大学助教授(英語)を歴任。NHKロシア語講座の講師としてテレビ・ラジオに出演。現在、神田外語大学特任教授。外国語の面白さ、それを学ぶ楽しさを語らせたら並ぶ者がないと言われ、著作も多数。
著書に『羊皮紙に眠る文字たち』『外国語の水曜日』『ロシア語の余白』『チェコ語の隙間』『ロシア語だけの青春』(いずれも現代書館)、『もっとにぎやかな外国語の世界』『寄り道ふらふら外国語』『寝るまえ5分の外国語』『ことばはフラフラ変わる』(いずれも白水社)、『ぼくたちの英語』『ぼくたちの外国語学部』(いずれも三修社)、『ポケットに外国語を』『その他の外国語エトセトラ』(いずれもちくま文庫)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    外国語で読書する場合、すべてを分かろうとしないことが重要だ。分からなくても、とりあえず先に進もう。
  • 要点
    2
    ある言語で親しんだ作品を別の言語で読めば、外国語の運用能力が滑らかになるだけでなく、その作品を再び楽しむことができる。
  • 要点
    3
    音を聞ける映画と、能動的に読める小説、どちらも外国語力を高めるために有効だが、両者の良いとこ取りなのが「戯曲」である。戯曲は演じられたものを耳で聞くだけでなく、本として読むこともできる。さらに、会話で使える表現を学べる点も魅力的だ。

要約

物語を外国語で楽しむ

試行錯誤して読む長編小説
Svitlana Unuchko/iStock/Thinkstock

著者は、教養英語の授業を担当することが決まったとき、ヘンリー・フィールディングの『トム・ジョーンズ』を読み始めた。自身の英語力向上がねらいだ。

『トム・ジョーンズ』を選んだのは、1997年にイギリスBBC放送が制作したドラマを観ていたからだ。面白い映画やドラマを観ると、その原作を読みたくなる。

昨今、教養英語の授業といっても、文学作品を教材にすることはほとんどない。むしろ、新聞記事を寄せ集めたものや、TOEICの対策問題集などといった、つまらない教科書を使うことが多い。それは不幸なことだと著者はいう。

著者が読み始めた『トム・ジョーンズ』は、細かい活字で800ページ以上に及ぶ長編小説である。邦訳版は4巻本になっている。日本語で読むとしても一苦労だが、原書で読むのだから途方もないほどの時間がかかるボリュームだ。

外国語で読書する場合、すべてを分かろうとしないことが重要だ。すべての語彙と慣用表現と構文を理解しようとしたり、辞書を引いたりしてはいけない。分からなくても、とりあえず先に進もう。長編小説であれば、読み進めていけばいつかは分かるかもしれない。こうした試行錯誤ができるのが、長編小説のいいところだ。

英語で読む横溝正史

映像を観た後に原作を読むというルートは、外国作品に限ったことではない。日本の映像作品から外国語読書へとつなげることもある。

著者は、市川崑監督作品のファンである。『犬神家の一族』や『悪魔の手毬唄』などをくり返し観ていたほどだ。そして洋書店で『犬神家の一族』を見つけたことをきっかけに、英訳を読んでみることにした。映像で観ていたからストーリーは知っているものの、原作を知らない日本の小説を英語で読むのは初体験であったという。

結果として、『犬神家の一族』の英訳版は、楽しく、読みやすいものだった。1つの章が適度な長さで読み進めやすい。さらに、日本語より注意深く読むため、映像では見過ごしてしまいがちな細かい点にまで気づくことができた。日本独自の事物が英語でどう訳されているのかも、興味深く読んだという。横溝正史のミステリーは、伝統社会の描写あり、俳句やわらべ歌を使ったトリックありで、日本理解にぴったりだという発見もあった。

ある言語で親しんだ作品を別の言語で読めば、外国語の運用能力が滑らかになるだけでなく、その作品を再び楽しめるのだ。

日本語学習者が読む日本文学
Choreograph/iStock/Thinkstock

現地でことばを覚えた外国人の中には、ことばがあまりに口語的すぎたり、それが行き過ぎて乱暴なことば遣いをしたりする人も少なくないものだ。しかし、著者の友人のロシア人は、それに当てはまらない。彼女は穏やかで正確な日本語を話すため、彼女の日本語はどんな人にもよい印象を与えるという。

しかし彼女は突然「私の日本語はまだまだです」と言い出した。その理由を聞いてみると、

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要約公開日 2018.09.09
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