いまやネットなくして生活は成り立たないといってよい。その状況はすでに当たり前過ぎて、ネットの威力について、多くの人が理解できていないというのが著者の印象だ。
特にネットがメディア業界に与えたインパクトは非常に大きい。アメリカ発のネット動画配信サービスを提供する「ネットフリックス」や、Amazonが運営する「プライム・ビデオ」。これらが2015年に日本で始まってからは、計り知れない衝撃を私たちや既存のメディアに与え続けている。2000年以降、ネット広告の売上高はそれまで莫大だったテレビ広告の売上高を猛追し、2014年に1兆円の大台を超えた。広告業界の中では非常にシンボリックな出来事だったといっていい。また、結局成功はしなかったが、ネット企業がテレビ局を買収しようとするほどの資金力もつけていった。
このほか動画サイトの成長も見逃せない。2005年12月にYouTubeが正式にサービスを開始し、その1年後にはニコニコ動画のサービスがスタートした。この頃から次第に、テレビを脅かす存在としてネットが認識され始めていった。iPhoneに代表されるスマホの登場などが、そうした動きに拍車をかけた。
先に触れた「ネットフリックス」や「プライム・ビデオ」の存在は、テレビにとって決して過小評価できない存在である。なぜなら、両者の登場により、これまでの常識を覆すような変化が起きているからだ。
その一つとして挙げられるのは、こうしたサービスがこれまでの動画配信サイトとは根本的に異なるビジネスモデルを有している点である。それは月額課金プラス都度課金の組み合わせによる会費制モデルだ。会費制ビジネスの強みは、「クリティカルマス」(商品やサービスが市場に爆発的に広がるために最低限必要な普及率)を超えた瞬間に、定常収入が際限なく上がっていく点にある。そのため、莫大な利益を生み出していく。
そうなると、潤沢な資金を後ろ盾とし、莫大な制作費を投入して、よりクオリティの高いオリジナルコンテンツを生み出せる。テレビや映画と違って、時間的な尺に対する制約がない。そのため、長編のコンテンツを作ることも可能だ。アメリカでは多くのハリウッドスターたちが、こぞってネットフリックスの作品に出演する動きも出ている。
ネットの猛烈な勢いに、テレビ局の人たちはもちろん気づいており、危機感を抱いている。ネット配信とどう併存していくかを模索中だ。
ただし、テレビ局は大きなハンデを背負っている。その最たるものが芸能事務所の問題だ。所属タレントがネットに出演するのを、頑なに拒む事務所が一部存在する。このため、新興国では当たり前になっているテレビとネットの同時放送は、日本ではできないのが現状だ。仮にネットでも放送される場合には、新たな出演料が発生してしまう。こうした狭い視野での力関係が、日本全体のメディアの在り方にまで大きな影響を及ぼしている。このままでは世界の動きから、日本が取り残されかねない。
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