2017年11月中旬、3メガバンクグループが行った発表により、全国の銀行員に激震が走った。それは、三菱UFJ銀行が約6000人、三井住友銀行が約4000人分の業務量を、みずほ銀行が1万9000人を削減するというものであった。銀行業界では、この規模の人員削減は戦後はじめてのことだ。この発表により、「銀行員=安定した仕事」という神話が崩れ落ちたのだった。
これまでメガバンクは、厳しい経営環境でも危機感に乏しく、顧客志向とは程遠い銀行本位のセールスを行ってきた。日銀によるマイナス金利政策は、そんな「変われない銀行」に変革を迫った。銀行の収益構造は一気に悪化し、特有の高コスト(人件費)体質が重たくのしかかる。
メガバンクには、国内業務の不振を穴埋めできる収益の柱として、国際業務があった。しかしトランプ政権が金融規制の緩和を打ち立てたことにより、邦銀が享受してきたビジネスチャンスを喪失することとなったのだ。株式市場においてもメガバンクグループの株価の上げ足は鈍く、「収益先細り」という見方が圧倒的に強くなっている。
追い打ちをかけるように出現した強敵が、フィンテック・プレーヤーだ。フィンテック・プレーヤーは、スマートフォンなどを通じて送金や支払いなどを行うフィンテック(financial technology/金融とIT技術の融合)を活用した新たな金融サービスを提供する。こうしたサービスは、それまで銀行が人手を使ってきた事務作業をシステム化しているため、便利で、簡単で、しかも料金が安い。加速度的に利用層を広げていくだろう。
とりわけフィンテック・プレーヤーの活躍が期待されるのは、リテール業務分野だ。とくにマスリテールの領域においては、資金決済からローン申し込みまでをスマホ操作によって完了させることができる。メガバンクグループが従来型のリテール業務のスタイルにこだわり続ける限り、競争力は失われ、さらなる採算悪化に陥ることは目に見えている。
銀行のビジネスモデルはもはや時代遅れであり、立て直しのための時間はそう多く残されていない。そんななか、3メガバンクグループのなかで先陣をきったのは、三井住友フィナンシャルグループだった。2015年、リテール業務部門を中心に組成されたキャラバン隊が、欧米諸国の銀行のリテール店舗を視察するための隠密行動を起こした。
米国や欧州では、銀行店舗はIT技術を駆使して劇的に変化していた。経営陣はこの隠密行動をもとに、リテール業務改革に舵を切った。その目玉の一つが中野坂上支店である。中野坂上支店は、大きなビルの11階にあり、窓口もなければ必要事項を記入する用紙もない、支店長室さえもない「次世代店舗」である。三井住友では、2019年度には現在の430店舗すべてを次世代店舗に入れ替える予定だという。
三井住友の実現スピードは速く、スタートダッシュに成功した。だからこそ、三菱UFJ銀行が約6000人の業務量を、みずほ銀行が1万9000人を削減する一方で、三井住友銀行は約4000人分の業務量を減らすにとどまるのである。出遅れた銀行ほど人員削減規模が巨大になるのだ。
地方銀行は、メガバンクグループよりも厳しい経営環境に晒されている。
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