団塊ジュニア世代が60歳間近になる2030年をひとつの基準とし、第4次産業革命に関連したテクノロジーが医療現場でも活用される時代の医療を、著者は「医療4.0」と呼ぶ。ここではまず、日本の医療における現状の課題について整理しよう。
(1)急激な人口減少と高齢化
未来を占ううえで最初に押さえるべきは「人口動態」である。日本の人口は2008年をピークとして、すでに減少のフェーズに入っており、急速に高齢化が進んでいる。
ただしこれは東京都、大阪府、神奈川県、埼玉県、愛知県、千葉県、北海道、兵庫県、福岡県といった都市部およびその近郊での話だ。じつはそれ以外の地域だと、2030年になっても高齢者の数はいまと大きく変わらない。なぜならすでに高齢化がピークに達しているからである。つまりひと口に高齢化といっても、必要とされる医療の質と量は地域によって異なるのだ。
(2)増加する社会保障給付費
高齢化の進行にともない、医療費に年金や福祉を合わせた社会保障給付費が年々増加している。社会保障給付費はすでに国民所得の約3割を占めるという。日本の国民所得は2000年以降大きく変化しておらず、今後も国民の負担はますます大きくなるだろう。
(3)生活習慣病の増加などの疾病の変化
死亡原因全体の6割を占めるのが、悪性新生物(癌)、心疾患、脳血管疾患などの「生活習慣病」だ。これらだけで医療費の3割が費やされている。また介護を必要とせず、自立した生活を過ごせる「健康寿命」と「平均寿命」の差が拡大しており、高度な医療や介護を利用する期間が長くなっている。あわせて「認知症」を有する人が増えることも予想される。
著者と対談した医師のひとりである原聖吾(株式会社情報医療代表取締役)は2018年時点の日本の医療について、平等性、セーフティネット、フリーアクセス、高いアウトカム、比較的低コストといった点で、世界に誇るべきものとして評価している。
平等性は、社会保険を中心とした医療制度によって実現している。セーフティネットとしては、自己負担が高額になった場合に一部が払い戻される制度がその好例である。また日本では、受診する医療機関を選べるフリーアクセスが担保されている。アウトカムをみても、平均寿命の長さや幼児死亡率の低さは、世界でトップクラスの水準だ。こうした医療が比較的低いコストで提供できている。これらが日本の医療の特長といえる。
著者の提唱する「医療4.0」とは、医療の現場のニーズや課題と最新のテクノロジーを融合させて、新しい医療の世界を拓こうという一連の動きを指す。その具体例を示すべく、本書では30人の医師へのインタビューを敢行している。インタビュー対象は、既存の医療機関で医療に従事しつつ、外部との連携で新しい試みにチャレンジしている臨床医師から、研究機関で研究に従事する医師、さらには医師業のかたわら起業した経営者までさまざまだ。
彼らに共通した傾向はいくつかあるが、ひとつには強い現場思考がある。その代表的なものとして、お茶の水循環器内科院長である五十嵐健祐の声を紹介したい。
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