冷戦終結後、欧州ではリベラルの秩序が崩壊しはじめているといわれる。そうした指摘のなかには、「ポピュリズム」の台頭が西側諸国のリベラル・デモクラシー(立憲民主主義)体制を危機にさらしたという声も含まれている。
「大衆迎合主義」とも称されるポピュリズムは、以下のように定義される。「特権的エリートに対抗して一般大衆の利益、文化的特性および自然な感情を強調する政治活動。正当化のために、ポピュリストはしばしばチェック・アンド・バランスや少数派の権利にあまり配慮することなく、直接に、すなわち大衆集会、国民(住民)投票や、大衆民主主義の他の形を通じて、多数派の意思に訴える」(Di Tella 1995)。
このようにポピュリズムでは、「多数派の一般大衆」と「特権的エリート」の対抗関係が前提とされ、政治は民衆の一般意思の表明であるべきと主張される。
ポピュリスト政党は、移民排斥を主張する排外主義・ポピュリズムと、司法権の独立などを否定しようとする反リベラル・ポピュリズムに大別できる。前者はとくに急進右派や極右に見られ、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」(AfD)、オランダの「自由党」(PVV)、「イギリス独立党」などがこれに当たる。
西側諸国の秩序の中核であったリベラル・デモクラシーは、リベラルとデモクラシーの2本の柱で支えられている。ただしリベラルの柱では法が国家の最高権威とされる一方で、デモクラシーの柱における最高権威は法ではなく人民にある。ゆえに両者の関係は常に不安定であり、バランスが崩れるとポピュリズム(過剰な多数派支配)、もしくは急進的多元主義(過剰な少数派支配)に陥ってしまう。
リベラル・デモクラシーの真骨頂は、たとえ敗れても次にまた勝つ機会があることだ。したがって敗者になっても亡命したり潜伏したりする必要はない。しかしポピュリストは「国民の意思はいかなる力からも制約を受けるべきではない」と考え、選挙で負けた人々を含む少数派の保護という、リベラル・デモクラシーの基本前提を否定する。
EUがポピュリストに不評を買っている理由もここに見いだせる。EUはリベラル・デモクラシー(とくにリベラル)を体現している政体だ。EUの主要機関であるコミッション(欧州委員会)、EU司法裁判所、欧州中央銀行は、選挙で選ばれない独立した「非多数派機関」である。これらの機関は加盟国政府と国内多数派の行動に制限を課すことがあるため、ポピュリストの目には「国民の意思を邪魔している」と映る。そのためEUはポピュリスト政党の標的にされるのだ。
EUの中心的な存在意義は、物・人・サービス・資本の自由移動から成る単一市場の構築と発展にある。EUの単一市場は「完全雇用および社会的進歩を目標とする、高度の競争力を伴う社会的市場経済」(EU条約第3条3項)を理念とし、経済的弱者の保護など社会面にも配慮している。
2007年3月に発表された「ベルリン宣言」では、単一市場と単一通貨ユーロがグローバル化に対抗するための手段として位置づけられた。しかし翌年以降、EUは度重なる危機に襲われる。2008年秋にリーマンショックを発端とする世界金融危機に見舞われ、2010年にはギリシャをはじめとする一部の加盟国の深刻な債務危機がのしかかった。
さらに2015年にはシリアなどから100万人以上の難民が押し寄せ、欧州全体が混乱状態に。
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