著者らは、長年にわたりOSTなどのワークショップを、組織開発や地域コミュニティ開発の現場で実施してきた。そのなかで、参加者の一人ひとりが確固たる考えを持ち、それを発信、実行しようとする姿に感銘を受けてきた。一方で、企業の経営幹部からは、こんな嘆きの声を聞いてきた。「社員は言われたことはそつなくこなすが、自分から積極的に行動を起こさない」。この落差は何なのか。その問題を解決するヒントとなるのが「OSTにおける場づくりとファシリテーションのあり方」である。
OSTのファシリテーターは、指示命令型のリーダーではない。参加者が自由に意見を述べ、実現したい未来に向けて仲間を募り、行動を起こす。そんなリーダーシップを育む場づくりを支援している。
OSTが他のワークショップの手法と異なる点は何か。ワールドカフェのような他のワークショップ手法では、話し合いの細かい内容についてファシリテーターが介入することはあまりない。しかし、テーマについては、主催者ないしファシリテーターが提示する「問い」について話し合ってもらうのが一般的だ。これに対して、OSTの場合は、話し合うテーマも含めて、すべて参加者主導で決めていく。
それでは、ファシリテーターの役割は何か。1つは「そもそも何のためにこのOSTを開催するのか」という「目的」を明確にすることである。本書に挙げられている目的の例には、次のようなものがある。共働き夫婦のワークライフバランスを考える、新製品の開発、間接部門の生産性を上げる、被災地の二次災害を減らす、外国人観光客を増やすなどだ。
それでは、OSTの流れを順に見ていこう。OSTの企画段階におけるポイントは2つある。1つは、「OSTの開催目的を明らかにすること」である。OSTでは、この目的に対して参加者が自主的に話し合いたいテーマを提案することになっている。よって、目的が曖昧だと、参加者もどんなテーマを出してよいのかわからない。
OSTを企画した後の当日の流れは、「オープニング」「テーマ出し」「マーケットプレイス」「分科会」「クロージング」から成る。開催当日には、OSTの目的を参加者が十分に理解していて、話し合いに強い情熱と責任感を持ってのぞめるような配慮が重要となる。このように、参加者の心の準備ができている状態を「レディネス」という。この「レディネスを高めること」が、OSTの企画のもう1つのポイントである。この後、会場の選定と設営や、備品の用意などを行う。
まずはOSTのグラウンド・ルール(その場の基本のルール)というべき、「4つの原則」を紹介する。当日のオープニングは、参加者にこの原則を丁寧に説明するところから始める。
第1の原則:「ここにやってきた人は、誰もが適任者である」
これは、参加人数や参加者の地位、立場などは問題ではないということである。大切なのは、プロジェクトを成功させたいという情熱を持った人が参加しているかどうかである。このことを、いま一度参加者に自覚してもらうのである。
第2の原則:「何が起ころうと、それが起こるべき唯一のことである」
OSTの場では、予想外のこと、ときには場そのものが壊れてしまうようなハプニングが起こるかもしれない。しかし、何が起ころうと、起こるべくして起こったと考え、その瞬間を学びの瞬間に変えるという心構えが大切である。
第3の原則:「いつ始まろうと、始まった時が適切な時である」
話し合いがうまく進まなかったり、良いアイデアが浮かばなかったりしなくても、不安になったり焦ったりする必要はない。創造のスピリットは、いつ湧き上がってくるのかわからないのである。
第4の原則:「いつ終わろうと、終わった時が終わりの時なのである」
話し合いが予定より早く終わったり、あるいは終わらなかったりしても、無理に予定の時間に合わせる必要はない。終わったらそこで切り上げればよいし、終わらなければ別の機会を設定すればよいだけだ。
グラウンド・ルールの役割は、このルール内であれば参加者の自由と主体性は最大限尊重されることを示し、安心・安全な場をつくることにある。
OSTには「4つの原則」のほかに「移動性の法則」」がある。これは「蜂」と「蝶」という、2つの比喩で表現される。OSTではチームごとに、分科会という話し合いが行われる。もしその分科会が自分の期待した場ではない、あるいは自分が十分にその分科会に貢献できないと感じたら、参加者は他の分科会へ自由に移動できる。
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