20億人の未来銀行

ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る
未読
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ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る
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20億人の未来銀行
著者
出版社
出版日
2018年06月25日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

アフリカ南東部の国モザンビーク。電気も通っていない村で電子マネーを使った「新しい仕組みの銀行」を構想している起業家がいる。彼の名は合田真氏。その壮大な起業ストーリーとともに、フィンテックの新たな可能性を提示したのが本書だ。これだけ聞くと、「ぶっ飛びすぎ」と思う読者もいるかもしれない。しかし、読み進めるにつれ、「地に足がついている」という感想を抱くようになるだろう。

合田氏は現状の金融システムに疑問を呈する。「分配できる資源が頭打ちの今、富の偏りを加速させる複利を是とする金融システムは社会の不安定を招く」というのだ。そんな問題意識のもと、彼が率いる日本植物燃料がモザンビークで実現をめざすのが、「収益分配型モバイルバンク」構想である。この構想は合田氏がバイオ燃料の原料栽培に関わる中で、現地の農民のニーズに応えようとして生まれた。「収益分配型モバイルバンク」では、預金者への金利を約束せず、一方で融資を受ける人から複利の貸出金利を取らない。メインの収入源は、電子マネーを使って買い物をする際の決済手数料。この決済手数料から得られる収益の20%を、預金者に還元する。還元先は個人1%で残り19%は村単位に還元され、学校の建設や通信インフラ整備などに充てる。まさに「新しい仕組みの銀行」といえよう。

合田氏の起業ストーリーを一言で表すと「積小為大」ではないか。理想を大きく描くことも大事だ。しかし、目の前にある課題を着実に解決することではじめて、理想が現実化する。それを体現する著者の構想力、行動力から学べるものは計り知れない。

著者

合田 真(ごうだ まこと)
日本植物燃料株式会社 代表取締役社長。1975年長崎生まれ。京都大学法学部中退。2000年に日本植物燃料株式会社を設立。アジアを主なフィールドに、植物燃料を製造・販売する事業を展開する。その後アフリカのモザンビークに拠点を拡大し、2012年に現地法人ADMを設立。同国の無電化村で、地産地消型の再生可能エネルギーおよび食糧生産を支援するとともに、農村で使えるFinTechやAgriTech事業にも取り組んでいる。

本書の要点

  • 要点
    1
    著者はモザンビークで、お金の「ものがたり」を変えようとしている。資源制約期の現在、自由競争のルールに則った金融システムに従っていると、社会が不安定化する恐れがある。
  • 要点
    2
    現在のお金の「ものがたり」の問題点は、「お金でお金を稼ぐ」すなわち「複利」で稼ぐことを是とする点にある。お金を貸している側に富が積み上がり、富の偏りを生み出してしまう。
  • 要点
    3
    著者がめざすのは、電子マネーを使って買い物をする際の決済手数料を収入源とする、「収益分配型モバイルバンク」の構想だ。

要約

【必読ポイント!】 新しいお金のものがたり

モザンビークの農村で「新しい仕組みの銀行」を作る
dk_photos/iStock/Thinkstock

アフリカ大陸南東部に位置するモザンビーク。著者が経営する日本植物燃料は、モザンビークの農村で様々なビジネスに取り組んでいる。バイオ燃料による電力の供給、農作物の買い取り、栽培の指導、日用品を売るキオスクの経営、学校建設の支援など、実に多彩だ。さらには、無電化の村に電子マネーを使った、「新しい仕組みの銀行」を作ろうとしている。

なぜこの地でそんな壮大な取り組みをするのか。そもそも、無電化の村には銀行がない。そのため村民は、現金を自宅の地面に埋めて保管していることが多い。送金したい場合は、半日かけて銀行のある町に通うか、知り合いに託すかしかない。盗難・紛失のリスクが常につきまうのだ。しかし、電子マネーを使えば、村民は自分の村から安全かつ簡単に貯蓄や送金ができる。

著者の狙いはそれだけではない。「新しい仕組みの銀行」を構築することで、途上国の経済構造における根本的な課題を解決したいと考えている。

モザンビークの農民たちは労働時間、身体的な過酷さという観点でいうと、先進国の人よりはるかに頑張って働いている。だが、いくら働いても豊かになれないでいる。なぜなら、努力が足りないというレベルとは、別次元の問題が横たわっているためだ。不条理を生む一因は、既存の金融システムである。それに代わる新しいお金の「ものがたり」のモデルを作り出すべく、著者は奮闘している。その「新しい仕組みの銀行」については後述する。

資源制約期に必要な「ものがたり」とは?

世界は「現実」と「ものがたり」で構成されている。「現実」とは、物理的なルールに従って存在しているものを指す。たとえば、生命や食糧、エネルギーといったものは、物理的にこの世に存在しており、それらが存在するうえでのルールを、人間が変えられない。

一方、「ものがたり」とは、時代ごとに当たり前とされるもの、いわば「常識」を指す。お金もまた、価値交換の仕組みという「ものがたり」の1つである。「そうしたほうが都合がよい」という理由で人間が作り出し、受容しているものにすぎない。よって、思考によって自由に変更できる。

著者はモザンビークで、お金の「ものがたり」を変えるモデルづくりに取り組んでいる。現在の世界は、エネルギーや食糧の生産が横ばい、あるいは減っていく資源制約期にある。この資源制約期に、自由競争の「ものがたり」に従い続けていると、システムが破綻する危険性が高い、というのが著者の問題意識だ。

国際エネルギー機関の2010年の報告によると、「世界の原油生産量は2006年にピークを迎えた可能性が高い」という。第二次世界大戦以降、世界のエネルギー消費の総量は右肩上がりに増えてきた。しかし、原油生産はピークを迎え、世界は資源制約期に入った。

資源拡張期ならば、競争に勝った人が多くを得る自由競争の分配ルールで問題ない。競争の結果、1割の人が富の9割を独占したとしても、分配できる資源の総量が増え続けていると、大きな問題は生じづらい。しかし、分配できる資源に限りがある資源制約期には、同じようにはいかず、社会が不安定になりかねない。

金利で稼ぐモデルは資源制約期の「現実」に合わない
G0d4ather/iStock/Thinkstock

現在のお金の「ものがたり」の問題点は何か。それは、「お金でお金を稼ぐ」こと、すなわち「複利」で稼ぐことを是とする点にある。なぜなら、複利は富の偏りを生み出すからだ。年率8%の複利で運用すると、9年目には元金の倍になる。また年率12%なら、6年で倍になる。このように、お金を持っている側、貸している側に富が積み上がっていく。

モザンビークでは市中銀行でお金を借りると、20%以上の金利を支払う必要がある。この偏りが、最終的に共同体を崩壊に導く可能性が高い。

もともと、宗教の教義で「金利を取ること」を禁止していた歴史もある。たとえば、ユダヤ教では原則として、ユダヤ教同士の間で金利を取ることを禁じている。

ではキリスト教はどうか。カソリックの時代である中世ヨーロッパでは、シェークスピアの戯曲『ヴェニスの商人』において、高利貸しが社会の安定を壊す悪として描かれている。中世ヨーロッパは資源制約期であったため、キリスト教は社会安定のために、金利を容認しなかったことが推測される。

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要約公開日 2018.09.20
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