立地に恵まれ、名の知れた温泉街であるにもかかわらず、熱海は多くの課題を抱えている。そして、熱海で起こっていることは、今後他の地域でも起こることが予想されている。
まず人口の減少である。熱海の人口は、1965年をピークに、50年以上にわたって下がり続けている。次に、高齢化率の上昇だ。日本の高齢化率は27%だが、熱海ではすでに45%に達している。毎年1%ずつ上昇を続けてもいる。
空き家率も課題だ。日本全国の平均は13%だが、熱海の空室率は24%に昇る。しかもこれはリゾートマンションの空き部屋や空き別荘を除いた数である。それらも含めれば、熱海の空き家率は50%を超えるだろう。
生活保護率の高さや出生率の低さ、未婚率の高さ、40代の死亡率の高さにおいても、静岡県内で1位2位を争う状況だ。熱海は、日本がこれから直面する課題を先取りしていると言える。
1960年代半ばから70年代前半にかけて、熱海は日本を代表する温泉観光地として栄えていた。しかしバブル経済が崩壊すると、街は急速に衰退していく。1990年代前半には伊豆半島の伊東沖で群発地震が頻発し、それが観光客の足を遠ざけるとどめとなった。やがて宿泊客数は半減し、人口も約3分の2に激減することとなる。
こうした衰退は熱海だけに限ったことではない。では、なぜ日本の温泉観光地がどこも衰退していったのか。
その原因は、従来型の観光が行き詰まったということにある。熱海の全盛期である1960年半ばには、慰安旅行に訪れる首都圏の企業が宿泊客の中心だった。熱海にやってきて、旅館で温泉につかり、宴会をして帰って行くという旅行である。
ところが、2000年代に入ったころから、旅行客のニーズに変化が見られるようになった。団体で宴会をすることではなく、個人や家族で旅行に出かけ、体験・交流することを重視することになったのだ。温泉観光地は、このようなニーズの変化に対応できず、衰退の一途を辿ることになった。
熱海を再生するにあたってまず問題となったのは、地元の人が熱海に抱いている感情だ。2010年のアンケート調査によると、熱海在住の地元の人の43%が熱海に対してネガティブなイメージを持っていることが明らかになったという。
これに対し、別荘などを持っている二地域居住者のうち熱海にネガティブなイメージを持っている人は18.8%、観光客では26.3%であった。地元の人が抱いているネガティブなイメージを変えることが、熱海再生の最初の課題となった。
地元の人に地元を知ってもらうために始めたのが、
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