熱海の奇跡

いかにして活気を取り戻したのか
未読
熱海の奇跡
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熱海の奇跡
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2018年06月14日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

かつて首都圏の近郊にある温泉地として栄えた熱海。高度成長期から徐々に人気がかげり、20世紀末から2000年代には「衰退した観光地」の代名詞となっていた。1960年代には530万人だった旅館やホテルの宿泊客は、2011年には246万人と、半分以下に落ち込んでいたという。しかし2015年には308万人までその数値を伸ばし、わずか4年間で20%のV字回復を見せている。

本書で著者は、熱海再生の要因として、大型温泉ホテルの廃業後に時代のニーズに沿った低価格ホテルが次々と作られたこと、2007年頃から団塊世代の退職に伴い別荘が増えたことなどを挙げている。しかしそれと同時に、これらの外的要因だけが熱海再生を支えたわけではないとも述べている。

著者は、熱海にUターンし、熱海再生のためのNPOを立ち上げた人物だ。彼らが民間の立場からどのようなアプローチによって熱海を再生させたのか、本書にはその努力と試行錯誤の経緯がふんだんに紹介されている。

そうは言っても、「V字回復は、熱海だからこそできたことだ」と思う方もいるかもしれない。しかし著者によると、熱海が衰退したのも、その他の温泉観光地が衰退したのも、同じ理由によるものだという。それならば、本書で紹介される著者らの取り組みは、他の街にも応用が可能だといえるだろう。ビジネスの手法でまちづくりをするひとつのモデルケースとして、ヒントが満載の一冊だ。

ライター画像
池田明季哉

著者

市来 広一郎(いちき こういちろう)
株式会社machimori代表取締役。NPO法人atamista代表理事。一般社団法人熱海市観光協会理事。一般社団法人ジャパン・オンパク理事。一般社団法人日本まちやど協会理事。
1979年静岡県熱海市生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)大学院理学研究科(物理学)修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に勤務。2007年熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地再生のための活動「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流プログラムを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市と協働で開始、プロデュース。2011年民間まちづくり会社machimoriを設立、2012年カフェ「CAFE RoCA」、2015年ゲストハウス「guest house MARUYA」をオープンし運営。2013年より静岡県、熱海市などと協働でリノベーションスクール@熱海も開催している。2016年からは熱海市と協働で「ATAMI2030会議――熱海リノベーションまちづくり構想検討委員会」や、創業支援プログラム「99℃――Startup Program for ATAMI2030」なども企画運営している。

本書の要点

  • 要点
    1
    人口の減少、高齢化率の上昇、空き家率や生活保護率の高さ、出生率の低さ、未婚率の高さ、40代の死亡率の高さなど、熱海は日本がこれから直面する問題を先取りしながら衰退した。
  • 要点
    2
    熱海再生の一歩としてまず重要視されたのは、地元の人が熱海の魅力を知ることと、熱海に対するネガティブなイメージを払拭することだった。
  • 要点
    3
    ゲストハウスを経営し、宿泊者が自然と熱海の街に出て行く仕組みをつくった。それによって宿泊者と住人との交流が生まれ、ファン化を促進することができた。

要約

衰退しつつあった熱海

熱海は50年後の日本の姿
dar_st/iStock/Thinkstock

立地に恵まれ、名の知れた温泉街であるにもかかわらず、熱海は多くの課題を抱えている。そして、熱海で起こっていることは、今後他の地域でも起こることが予想されている。

まず人口の減少である。熱海の人口は、1965年をピークに、50年以上にわたって下がり続けている。次に、高齢化率の上昇だ。日本の高齢化率は27%だが、熱海ではすでに45%に達している。毎年1%ずつ上昇を続けてもいる。

空き家率も課題だ。日本全国の平均は13%だが、熱海の空室率は24%に昇る。しかもこれはリゾートマンションの空き部屋や空き別荘を除いた数である。それらも含めれば、熱海の空き家率は50%を超えるだろう。

生活保護率の高さや出生率の低さ、未婚率の高さ、40代の死亡率の高さにおいても、静岡県内で1位2位を争う状況だ。熱海は、日本がこれから直面する課題を先取りしていると言える。

衰退の一途を辿った90年代

1960年代半ばから70年代前半にかけて、熱海は日本を代表する温泉観光地として栄えていた。しかしバブル経済が崩壊すると、街は急速に衰退していく。1990年代前半には伊豆半島の伊東沖で群発地震が頻発し、それが観光客の足を遠ざけるとどめとなった。やがて宿泊客数は半減し、人口も約3分の2に激減することとなる。

こうした衰退は熱海だけに限ったことではない。では、なぜ日本の温泉観光地がどこも衰退していったのか。

その原因は、従来型の観光が行き詰まったということにある。熱海の全盛期である1960年半ばには、慰安旅行に訪れる首都圏の企業が宿泊客の中心だった。熱海にやってきて、旅館で温泉につかり、宴会をして帰って行くという旅行である。

ところが、2000年代に入ったころから、旅行客のニーズに変化が見られるようになった。団体で宴会をすることではなく、個人や家族で旅行に出かけ、体験・交流することを重視することになったのだ。温泉観光地は、このようなニーズの変化に対応できず、衰退の一途を辿ることになった。

【必読ポイント!】街のファンをつくる

熱海再生の最初の課題

熱海を再生するにあたってまず問題となったのは、地元の人が熱海に抱いている感情だ。2010年のアンケート調査によると、熱海在住の地元の人の43%が熱海に対してネガティブなイメージを持っていることが明らかになったという。

これに対し、別荘などを持っている二地域居住者のうち熱海にネガティブなイメージを持っている人は18.8%、観光客では26.3%であった。地元の人が抱いているネガティブなイメージを変えることが、熱海再生の最初の課題となった。

チーム里庭の活動
Ingram Publishing/Thinkstock

地元の人に地元を知ってもらうために始めたのが、

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要約公開日 2018.09.16
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