「もう小売店は店をたたむしかないでしょう。みんなネットで買い物をすませるようになりますから」。
小売業界全体を敵に回しそうな率直な物言いをするのは、シリコンバレー屈指の投資家マーク・アンドリーセンだ。名だたるテクノロジー系企業に投資しており、トレンドを見通す眼力には定評がある。そんな彼の言葉がきっかけで、小売業界とネット通販専業事業者の未来をめぐる大論争が起きた。はたして小売は破滅へと突き進んでいるのだろうか。
アンドリーセンの意見に賛成する人々は、小売以外の業界も革新的な技術の進歩により深刻な影響を受けていることを指摘している。かつてビデオレンタル市場の約3割のシェアを占めていたブロックバスターは、いまではネットフリックスやビデオオンデマンドの勢力に押され、虫の息の状態だ。
新しいテクノロジーの影響は絶大であるにもかかわらず、こと小売業界では実に200年もの間、小売の概念やそのあり方に変化は訪れなかった。小売業者が商品を仕入れ、消費者がそれを購入するという基本的な仕組みが、1800年代中期から変わらず続いていたのである。
なぜ小売業者はこれほどまでに遅れを取ってしまったのだろうか。そして来るべき時代を乗り越えていけるのだろうか。著者の結論はこうだ。小売はこれから歴史的な大転換期を迎え、従来の小売は破滅へと突き進む。しかしそこから新たなスタイルが生まれるだろう。
2016年11月11日、ネット通販業界に激震が走った。震源地は中国である。
毎年この日は中国では「独身の日」とされている。1993年に始まって以降、同日のお祭り騒ぎが定着するにつれて、小売業者が大型セールを実施するようになった。その火付け役が、中国のネット通販大手アリババグループである。
日付が変わって2016年11月11日が始まってから、1時間でアリババが売り上げた金額は、実に50億ドル(約5500億円)にもなった。1秒間に換算すると、約140万ドル(1億5400万円)だ。この日のアリババの最終売上金額は200億ドル(2兆2000億円)だったという。
このアリババが引き起こした大事件が、小売業界のネット通販に対する偏った考えを根こそぎひっくり返したことは想像に難くない。ネット通販業界はこのとき、新たな次元に突入したのだ。
さらにアリババは、ネット通販で致命的な弱点であった利益率も克服した。2013年3月期決算で粗利益率28.6%という数字をはじき出し、それ以降もおおむね30%台の粗利益率を維持している。
世界中でネット通販業界が毎年2桁成長を続ける一方、小売業界はどうにか1桁成長を維持するのがやっとの状況だ。
ネット通販の代名詞ともいえるアマゾン大躍進のとばっちりは、意外にもグーグルにまで及んでいる。
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