アリババの創業者ジャック・マーは、中国でインターネットのマーケットプレイスを構築して大成功を収めた。そもそもインターネットのマーケットプレイスは、買い手と売り手、双方の信頼がなければ成り立たないものだ。その仕組みを構築しただけでも素晴らしいことだが、さらにすごいのは、それを中国で実現したということである。中国社会では「コネ」が重要視されるうえ、家族や友人、同じ村の人といった親密な人間関係でなければ信頼が成り立たないからだ。だからマーは、中国でのビジネスにおける信頼の重要性を理解し、株式上場日のインタビューで何度も「信頼」という言葉を口にしている。
では信頼とは何か。政治学者エリック・アスレイナーは、「信頼は社会生活の必需品」だと言う。たとえば宅配の寿司を注文するとしよう。そのとき私たちは、そのレストランが新鮮な材料を使い、厨房は清潔で、クレジットカード情報を悪用せず、配達人が寿司を持ち逃げしないと信じている。自分が騙されるリスクがあると考えれば、ほとんど何もできなくなってしまうだろう。信頼は、社会をまとめ、経済を回す潤滑剤なのだ。
それではジャック・マーは、買い手に売り手を信頼させ、ものを買わせるために何をしたか。彼の施策のひとつに、「トラストパス」がある。これは売り手の認証制度で、第三者から身元と銀行口座を裏付けられた売り手だけが受けることができる。トラストパス認証を受けた売り手への問い合わせは、未認証の売り手よりも6倍多かったという。
やがてトラストパス認証に手数料を課すようになると、未認証の売り手への信頼はより低くなった。優良企業であるならば、少しの手数料を支払ってでもそれを証明しない理由がない。無料アカウントにしがみつくことは、信頼するに足りないことの証なのだ。
近年、新しい信頼の形が生まれつつある。ブラブラカーの事例をみてみよう。
ブラブラカーは、2006年にフランスで設立されたスタートアップで、車の座席をシェアするプラットフォームを運営している。つまり、運転者が旅行先までの車の空席を売り出し、買い手が座席を購入して同乗するというサービスだ。運転者は同乗者にガソリン代と有料道路の代金を請求することができる。ウーバーとは異なり、平均走行距離が約320キロと長いのが特徴だ。飛行機のエコノミークラスや電車が競合にあたるだろう。
設立者がブラブラカーのもとになるアイデアをビジネスコンテストに出したのは、2000年代後半のことだった。結果は4位。審査員からは、信頼が懸念だと指摘された。まだiPhoneのない時代で、会ったことのないドライバーと同乗者の間に信頼関係を築くのは至難のわざだったのだ。
実際、ユーザー同士がマッチングしても、予約のドタキャンが相次いでいた。だから同乗者は複数の予約を入れていたし、ドライバーも多めに予約を受け付けていた。その課題を解決するために導入されたのが、
3,400冊以上の要約が楽しめる