本書が特徴的なのは、「できる限り完全で一貫性ある歴史的情報源の集合を集め、長期的な所得と富の分配をめぐる動きを研究」しようとしている点である。所得の構成や、資本の蓄積の推移を示しながら、格差の拡大・縮小の歴史を紐解いてくれる。
まずは国民所得、資本、資本/所得比率の概念を紹介し、世界の所得分布と産出がどのように推移してきたかを描き出そう。所得は、資本所得と労働所得の和に分解できる。
国民所得=資本所得+労働所得
本書において資本とは、企業や政府機関が使う、各種の不動産や、金融資産、専門資産(工場、インフラ、機械、特許など)を指している(人的資産は含まない)。したがって資本所得とは、資本の所有者に対する支払いのことで、利潤、配当、金利、賃料、ロイヤルティなどのことを意味する。一方、労働所得とは労働者に対して支払われるもので、賃金、給与、賞与、ボーナスなどのことを指す。
所得と資本が定義できたら、この2つの概念をつなげる基本法則である資本/所得比率の定義に移ろう。
所得はフローだ。これはある期間(通常は1年)の間に生産され分配された財の量に対応する。資本はストックだ。それはある時点で所有されている富の総額(総財産)に対応する。
ある国の資本ストックを測るもっとも自然で便利な方法は、そのストックを年間の所得フローで割ることだ。これで資本/所得比率(βと表す)を求めることができる。
たとえば、ある国の総資本ストックが国民所得6年分に相当するならβ=6(もしくは600%)と書く。今日の先進国では、資本/所得比率はだいたい5から6くらいだ。
長い目でみると、資本構成に占める農地の割合は徐々に工業・金融資本と都市部の不動産にかわっていった。しかし驚くべきことに、資本/所得比率は超長期で見るとあまり変わっていない。イギリスやフランスでは第一次世界大戦直前には国民所得の6、7年分だった資本が、1914―1945年の戦災の打撃を受けて2―3年程度まで低下したあと、現在では約5―6年分にまで回復している。一方、米国では資本/所得比率の急激な増減はなく、いまも4年分をわずかに超える程度だ。
なぜ資本/所得比率はヨーロッパでは再び史上最高水準に回復したのだろうか? そしてヨーロッパの方が米国に比べて構造的に高いのはなぜだろうか?
先の問いの答えは、資本/所得比率と貯蓄率と成長率の関係によって説明される。長期的には、資本/所得比率βは、貯蓄率s、成長率gと次の方程式で示す関係を持つ。
β=s/g
たとえば、毎年国民所得の12%を蓄えており、国民所得の成長率が年2%の国では、長期的に資本/所得比率は600%になる。たくさん蓄えて、ゆっくり成長する国は、長期的には所得に比べて莫大な資本ストックを蓄積し、それが社会構造と富の分配に大きな影響を与える。貯蓄率が10―12%で、ヨーロッパのように人口成長がほぼゼロで、経済成長率が約1・5%の国なら、国民所得6―8年分に相当する資本ストックを蓄積できる。一方、米国のように人口成長が年間約1パーセント、経済成長率が2・5―3%の国では3―4年分相当の資本ストックという結果になる。
この法則について念頭に置くべき原則は、富の蓄積には時間がかかるということだ。
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