21世紀の資本

LE CAPITAL au XXIe siècle
未読
21世紀の資本
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LE CAPITAL au XXIe siècle
未読
21世紀の資本
出版社
みすず書房

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出版日
2014年12月08日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは本書を「今年、そしておそらくこの10年間で最も重要な経済書」と称した。経済格差に関するトマ・ピケティの鋭い洞察は、最初に出版されたフランスだけにとどまらず、世界中で大きな話題を呼んでいる。そしてついにこの話題の書籍の日本語版が発表されたのである。

かつては「一億総中流」といわれた日本でも、近年では格差が広がったと叫ばれることが増えてきている。本書では経済格差の実態を明らかにするとともに、経済格差を埋めるためにはどうすれば良いのか、具体的な施策を提案している。その理想の実現にはまだまだ遠いかもしれないが、実現に向けた第一ステップは取り組む価値が十分にあるものだ。

700ページを越える大著のため、読むには多少時間が必要かもしれないが、論理構造はストレートで、グラフや分かりやすい統計情報を用いて解説しているため、意外にもあっさり読めてしまうかもしれない。たとえば、既存の経済学では富の不平等度合いをジニ係数という統計概念を用いて説明することが多いのだが、本書では所得階層別の比率(上位10%が国民所得の何割を稼いでいるか、など)という誰にでもわかる形で表現している。

この本を読む読者の多くは所得階層が上位にいると想定されるが、格差が歴史上で最も広がりつつあるという事実を目にして、自身の富だけでなく、社会全体に目を向けるきっかけにもなるに違いない。

ライター画像
苅田明史

著者

トマ・ピケティ
1971年5月7日、フランスのクリシー生まれ。パリ経済学校経済学教授。社会科学高等研究院経済学教授。
多数の論文をQuarterly Journal of Economics, the Journal of Political Economy, the American Economic Review, the Review of Economic Studiesほかに発表、また多くの書籍を刊行している。経済成長と、所得および富の分配についての、重要な歴史的・理論的研究を行ってきた。特に、国民所得に占める所得上位層の割合の長期的推移に関する研究を先導している。

本書の要点

  • 要点
    1
    資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも大きければ、富の集中が生じ、格差が拡大する。歴史的に見るとほぼ常にrはgより大きく、格差を縮小させる自然のメカニズムなどは存在しない。
  • 要点
    2
    20世紀に格差が縮小した原因は1914―1945年の世界大戦の影響によるものだった。現在では富の格差は歴史的な最高記録に近づいているか、すでにそれを塗り替えてしまっている。
  • 要点
    3
    富の格差の無制限な拡大を抑えるための理想的な手段は、世界的な累進資産税を設けることだ。高度な国際協力と、地域的な政治統合を必要とするため、困難ではあるが、まずは第一歩を踏み出さねばならない。

要約

資本/所得比率の力学

weerapatkiatdumrong/iStock/Thinkstock
所得と資本

本書が特徴的なのは、「できる限り完全で一貫性ある歴史的情報源の集合を集め、長期的な所得と富の分配をめぐる動きを研究」しようとしている点である。所得の構成や、資本の蓄積の推移を示しながら、格差の拡大・縮小の歴史を紐解いてくれる。

まずは国民所得、資本、資本/所得比率の概念を紹介し、世界の所得分布と産出がどのように推移してきたかを描き出そう。所得は、資本所得と労働所得の和に分解できる。

国民所得=資本所得+労働所得

本書において資本とは、企業や政府機関が使う、各種の不動産や、金融資産、専門資産(工場、インフラ、機械、特許など)を指している(人的資産は含まない)。したがって資本所得とは、資本の所有者に対する支払いのことで、利潤、配当、金利、賃料、ロイヤルティなどのことを意味する。一方、労働所得とは労働者に対して支払われるもので、賃金、給与、賞与、ボーナスなどのことを指す。

資本/所得比率

所得と資本が定義できたら、この2つの概念をつなげる基本法則である資本/所得比率の定義に移ろう。

所得はフローだ。これはある期間(通常は1年)の間に生産され分配された財の量に対応する。資本はストックだ。それはある時点で所有されている富の総額(総財産)に対応する。

ある国の資本ストックを測るもっとも自然で便利な方法は、そのストックを年間の所得フローで割ることだ。これで資本/所得比率(βと表す)を求めることができる。

たとえば、ある国の総資本ストックが国民所得6年分に相当するならβ=6(もしくは600%)と書く。今日の先進国では、資本/所得比率はだいたい5から6くらいだ。

長い目でみると、資本構成に占める農地の割合は徐々に工業・金融資本と都市部の不動産にかわっていった。しかし驚くべきことに、資本/所得比率は超長期で見るとあまり変わっていない。イギリスやフランスでは第一次世界大戦直前には国民所得の6、7年分だった資本が、1914―1945年の戦災の打撃を受けて2―3年程度まで低下したあと、現在では約5―6年分にまで回復している。一方、米国では資本/所得比率の急激な増減はなく、いまも4年分をわずかに超える程度だ。

なぜ資本/所得比率はヨーロッパでは再び史上最高水準に回復したのだろうか? そしてヨーロッパの方が米国に比べて構造的に高いのはなぜだろうか?

資本主義の基本法則 β=s/g
Gabriel Schroer/iStock/Thinkstock

先の問いの答えは、資本/所得比率と貯蓄率と成長率の関係によって説明される。長期的には、資本/所得比率βは、貯蓄率s、成長率gと次の方程式で示す関係を持つ。

β=s/g

たとえば、毎年国民所得の12%を蓄えており、国民所得の成長率が年2%の国では、長期的に資本/所得比率は600%になる。たくさん蓄えて、ゆっくり成長する国は、長期的には所得に比べて莫大な資本ストックを蓄積し、それが社会構造と富の分配に大きな影響を与える。貯蓄率が10―12%で、ヨーロッパのように人口成長がほぼゼロで、経済成長率が約1・5%の国なら、国民所得6―8年分に相当する資本ストックを蓄積できる。一方、米国のように人口成長が年間約1パーセント、経済成長率が2・5―3%の国では3―4年分相当の資本ストックという結果になる。

この法則について念頭に置くべき原則は、富の蓄積には時間がかかるということだ。

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要約公開日 2014.11.28
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