スタートアップの構築は、組織の構築と同義である。つまり、起業をするうえではマネジメントを避けては通れない。しかし、これまでのアントレプレナー(起業家)は、一般的なマネジメント手法で問題に対処しようとしてきた。スタートアップは特殊な状況であり、これではうまくいくはずがない。20世紀に大きな成功を収めたこれまでのマネジメント手法は、スタートアップが直面せざるをえない混乱や不確実性とは相性が悪いのだ。
革新的なベンチャー企業には、革新的なマネジメントパラダイムの確立が必要不可欠であり、それこそがリーン・スタートアップなのである。
リーン・スタートアップという名前は、トヨタで大野耐一と新郷重夫が開発したリーン生産方式にちなんだものだ。リーン生産方式には、作業員がもつ個人的な知識や創造性の活用、バッチサイズの縮小、ジャスト・イン・タイムの製造と在庫管理、サイクルタイムの短縮などの要素が含まれている。このような考え方を起業に適用し、他社とは異なる基準で自社の進歩を測るべきだとするのが、リーン・スタートアップである。リーン・スタートアップは、「検証による学び」を単位として進歩を計測する。そしてスタートアップの足を引っ張る無駄を発見し、根絶するのだ。
スタートアップは誰も欲しがらないモノを作ってしまうことが多い。その場合、予定どおりに完成できたとしても、あまり意味がない。あくまでスタートアップの目標は、できるかぎり早く、顧客が欲しがり、お金を払ってくれるモノを突きとめることである。リーン・スタートアップはそのためのマネジメント手法だ。
著者がかつての体験から学んだことについて紹介しよう。著者がIMVUという企業の立ち上げに関わったときのことだ。創業メンバーは、「何を誰のために作るのか」、「どの市場ならいまから参入して支配的立場になれるのか」「競争でむしばまれることのない永続的な価値をどうしたら作れるのか」ということを中心に話し合った。その結果、IM(インスタントメッセージ)をターゲットにすることに決めた。
創業した2004年当時、IM市場は一部の企業による寡占状態だった。マーケティングによほどの資金を投入しないかぎり、新しいIMネットワークの参入は難しいと考えられていた。そこで著者たちは、ユーザー1人あたりの収益が大きい3次元のビデオゲームと仮想世界を、IMと組み合わせたらどうだろうと考えた。
また、新しいIMを立ち上げることは不可能に近いと思っていたため、既存ネットワークにつなげるIMアドオンを用意した。これなら、使っているIMを乗り換えなくてもよくなる。新しいユーザーインターフェースに慣れる必要もないし、一緒にやってくれるように友だちを説得する必要もない。
最高技術責任者だった著者は、目標に定めていた6カ月後の納期になんとか間に合わせようと必死で働きつづけた。こうしてできた最初のバージョンは悲惨だったが、なんとか期限内に製品の発表をすることができた。
しかし残念ながら、結果は散々なものだった。
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