静岡県富士市に拠点を置く富士市産業支援センター(通称f-Biz/エフビズ)。静岡県内で、創業・新事業を計画、あるいは経営上の課題をもつ個人、団体、企業を対象に、無料で起業の経営相談に応じる公的機関である。
2001年、小出さんは静岡銀行から創業支援施設「SOHOしずおか」への出向を機に、企業支援家の人生を歩み出した。2008年には故郷である富士市からの強い要請で、銀行を退職。f-Bizの運営を受託し、センター長へ就任した。「公的中小企業支援の成功モデルをつくる」というビジョンを体現すべく、約6000社の中小企業支援に携わり、新規ビジネスの立ち上げ件数は1400件を超える。2018年5月時点で、来場相談件数は3万件に達した。まさに「行列のできる相談所」といえる。
本書では、f-Bizが過去に支援してきた成功事例から、「小さき者が最強」になるために必要な、再現性のある方法を紹介していく。
小出さんが支援の中で最も注力しているのは、その会社の唯一無二の「セールスポイント」を探し出すことだ。どんな会社にも光る部分は必ずある。それを見極め、埋もれた原石のごとく磨き上げることで、他の追随を許さないようなセールスポイントとなる。
この真の強みを見つける一歩は、常識や思い込みを捨てることだ。プレス用金型メーカー「株式会社増田鉄工所」の事例を紹介しよう。同社は、通常なら部品を1つずつ製作してつくる金型を、「一体構造で加工する」という画期的な技術をもっていたものの、売れ行きが伸び悩んでいた。
小出さんが提案したのは、金型という「モノ」を売るのではなく、この金型がもたらす効果を「ソリューション」として売り出すことだった。そこで誕生したのが「金型革命5(ファイブ)ダウン」である。加工面数減、部品点数減、購入品数減、原価管理減、経理処理数減の5つの点から、品質アップ、短納期、コストダウンが見込めるというものだ。このサービス名を載せたチラシで取引先にPRした。すると1つ500万円もの金型が、半年で50件ほど契約に結びついたという。
これは後に、同社の最大の強みの発掘につながった。ヒアリングの結果、同社は納入先に対して定期的なメンテナンスを行っており、それが大きな損害を防いでいたことがわかった。これを「金型ドックBestコンディション」というサービス名で展開すると、たちまち問い合わせが殺到した。
このように、自社の「売り」となるオンリーワンの強みを見つけるのは意外と難しい。そこで、まずは他社をじっくり観察し、他社の「光る部分探し」をするとよい。身近な会社や経営者のことなら、リアルなお客様目線で客観的に見渡せるからだ。
観察の対象は異業種でもかまわない。異業種交流会を、他社の「光る部分」を見つけてヒアリングする機会にするのも有効だ。こうして360度自在に見渡せる目を養ったら、今度は自社をお客様目線で見てみよう。自社の「光る部分」が見えてくるはずだ。
成功する人や組織の共通項は何か。それは、「オンリーワンである」こと、「継続する情熱がある」こと、そして「行動力がある」ことの3つだ。ここでのオンリーワンとは、業界初、世界初といったものに限らない。「ありそうでなかった付加価値」くらいのものでもよい。特定の業界・分野での「ニッチなオンリーワン」も立派なオンリーワンである。このオンリーワンはどんな企業や人の中にも存在している。
オンリーワンを探し出すうえでおすすめなのは、通常業務外で「ユニークな依頼がなかったか」を洗い出すことである。
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