「がん」はなぜできるのか

そのメカニズムからゲノム医療まで
未読
「がん」はなぜできるのか
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「がん」はなぜできるのか
出版社
出版日
2018年06月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

がんは身近な病気である。日本人の2人に1人が生涯に一度はがんに罹り、男性の4人に1人、女性の6人に1人ががんで死亡すると推計されているほどだ。

もはや国民病とも言って差し支えないがんだが、私たちはがんについて十分な知識を持っているだろうか。「がんの定義は何か」「がんはどのように発生するか」「がんを予防することは可能なのか」――これらの問いに明確に答えられる人は多くはないだろう。

本書は、国立がん研究センター研究所の研究者らによってまとめられた。取り上げられるトピックは、がんとは何か、がんはどのように発生するかといった誰もが押さえておきたいものから、がんの予防法などの実践的な知識、さらには最先端のがん治療までと幅広い。

本書を読むと、がんは誰しもが罹る可能性のある病気だという事実を突きつけられる。がんは遺伝的要因よりもむしろ生活習慣のリスク要因が積み重なって発生する病気だと明記されているからだ。

しかし裏返していえば、生活習慣を改善すればがんを予防できる可能性があるということでもある。がんの予防法として「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの健康習慣を具体的に紹介してくれているところもありがたい。読者は今日から早速がん予防に取り組むことができるだろう。

がんは、自分や家族が罹る可能性が十分にある、他人事ではない病気だ。本書を読み、がんという病気に対する理解を深めてみてはいかがだろうか。

著者

国立がん研究センター研究所(こくりつがんけんきゅうせんたーけんきゅうじょ)
1962年に日本のがん医療・がん研究の拠点となる国立の機関として創設された「国立がん研究センター」の基礎研究部門。これまで、国内のみならず国外でがん研究に携わる人材を数多く育成・輩出してきた。創設以来、最新の技術・アプローチを駆使した独創的・イノベーティブながん基礎研究を土台として、発がん機構の究明から新しい診断・治療法の開発までを一貫して強力に進めている。現在、日本でのゲノム医療体制の構築と希少がん・小児がん・難治がん対策に重点的に取り込むとともに、製薬企業やアカデミアとの連携による基礎と臨床の橋渡し研究を積極的に推進している。

本書の要点

  • 要点
    1
    細胞が必要以上に増殖し続けてできたかたまりを腫瘍と言い、悪性の腫瘍を「がん」と呼ぶ。
  • 要点
    2
    がんの予防には、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの健康習慣が重要となる。5つすべてを実践する人は、実践しない人または1つだけ実践する人に比べ、男性で43%、女性で37%、がんになるリスクが低くなるという実験結果がある。
  • 要点
    3
    遺伝子の塩基配列を高速で読み取る次世代シーケンサーやAI(人工知能)など、最先端科学を結集させた「がんゲノム医療」が今後のがん治療の主役となる。

要約

がんとは何か

細胞の増殖が腫瘍をつくる
kirstypargete/gettyimages

人間の身体は数十兆個の細胞でできているが、元は受精卵という1個の細胞である。それが分裂を繰り返して増殖し、さまざまな種類の細胞に分化して組織や臓器をつくっていく。

体ができあがった後も、細胞は必要に応じて増殖する。たとえば、飲食などの刺激によって脱落しやすい胃の粘膜の細胞は、増殖によってスピーディーに補充される。細胞を入れ替えることで感染を防ぐこともできる。

一方、増殖しない細胞もある。脳や肝臓、心筋の細胞だ。どの細胞がどの程度増殖するのかがコントロールされているからこそ、私たちは健康を維持することができている。

しかし稀に、コントロールが効かず、細胞が必要以上に増殖し続けてしまうことがある。そうしてつくられた細胞たちのかたまりが腫瘍だ。腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍の2種類があり、悪性腫瘍を「がん」と呼ぶ。

悪性腫瘍の3つの特徴

悪性腫瘍の特徴は3つある。どれも命を脅かすものである。

1つ目が「自律性増殖」だ。がん細胞には、コントロールが効かない。勝手に増殖を続ける。

2つ目が「浸潤と転移」を起こすことだ。浸潤とは、がん細胞が周りの組織に入り込み、腫瘍が拡大していくことを指す。転移とは、がん細胞が体のほかの部分で新たに腫瘍をつくることだ。がん細胞は血流やリンパ系に入り込み、その流れに乗って別の場所に移動する。浸潤と転移を繰り返すと、治療が困難になってしまう。

3つ目が「悪液質」を引き起こすことだ。悪液質とは、栄養不良により体が衰弱した状態のことである。そうなると、食欲が起こらなかったりエネルギーを消耗してしまったりして体重が減少し、治療への耐久力が弱くなってしまう。

がんの診断
utah778/gettyimages

がんの診断の流れは、(1)医師による問診と診察、(2)血液検査や画像検査、(3)病理検査という順が一般的だ。ただし、がんが疑われる人の状態によってさまざまな方法が用いられることに留意したい。

問診と診察では、医師が体の状態や症状を詳しく聞いていく。あわせて、既往症やほかにかかっている病気、家族歴、喫煙や飲酒、職業などといった生活習慣も尋ね、診断の手がかりとする。

問診と診察が完了したら、より詳しい情報を得るための手段として、血液検査や画像検査が行われる。血液検査では、貧血や重要臓器の機能、全身の栄養状態などを調べることができる。加えて「腫瘍マーカー」という、がん細胞の存在を示唆する物質の血中濃度も確かめる。

画像検査には、超音波検査、X線検査、CT、MRI、PET、内視鏡検査などといった方法がある。この検査では、腫瘍の存在を調べる。

血液検査と画像検査を使っても、がんかどうかを確実に判断することはできない。

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要約公開日 2018.10.28
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