人間の身体は数十兆個の細胞でできているが、元は受精卵という1個の細胞である。それが分裂を繰り返して増殖し、さまざまな種類の細胞に分化して組織や臓器をつくっていく。
体ができあがった後も、細胞は必要に応じて増殖する。たとえば、飲食などの刺激によって脱落しやすい胃の粘膜の細胞は、増殖によってスピーディーに補充される。細胞を入れ替えることで感染を防ぐこともできる。
一方、増殖しない細胞もある。脳や肝臓、心筋の細胞だ。どの細胞がどの程度増殖するのかがコントロールされているからこそ、私たちは健康を維持することができている。
しかし稀に、コントロールが効かず、細胞が必要以上に増殖し続けてしまうことがある。そうしてつくられた細胞たちのかたまりが腫瘍だ。腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍の2種類があり、悪性腫瘍を「がん」と呼ぶ。
悪性腫瘍の特徴は3つある。どれも命を脅かすものである。
1つ目が「自律性増殖」だ。がん細胞には、コントロールが効かない。勝手に増殖を続ける。
2つ目が「浸潤と転移」を起こすことだ。浸潤とは、がん細胞が周りの組織に入り込み、腫瘍が拡大していくことを指す。転移とは、がん細胞が体のほかの部分で新たに腫瘍をつくることだ。がん細胞は血流やリンパ系に入り込み、その流れに乗って別の場所に移動する。浸潤と転移を繰り返すと、治療が困難になってしまう。
3つ目が「悪液質」を引き起こすことだ。悪液質とは、栄養不良により体が衰弱した状態のことである。そうなると、食欲が起こらなかったりエネルギーを消耗してしまったりして体重が減少し、治療への耐久力が弱くなってしまう。
がんの診断の流れは、(1)医師による問診と診察、(2)血液検査や画像検査、(3)病理検査という順が一般的だ。ただし、がんが疑われる人の状態によってさまざまな方法が用いられることに留意したい。
問診と診察では、医師が体の状態や症状を詳しく聞いていく。あわせて、既往症やほかにかかっている病気、家族歴、喫煙や飲酒、職業などといった生活習慣も尋ね、診断の手がかりとする。
問診と診察が完了したら、より詳しい情報を得るための手段として、血液検査や画像検査が行われる。血液検査では、貧血や重要臓器の機能、全身の栄養状態などを調べることができる。加えて「腫瘍マーカー」という、がん細胞の存在を示唆する物質の血中濃度も確かめる。
画像検査には、超音波検査、X線検査、CT、MRI、PET、内視鏡検査などといった方法がある。この検査では、腫瘍の存在を調べる。
血液検査と画像検査を使っても、がんかどうかを確実に判断することはできない。
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