著者は精神科医という仕事柄、「なんのために働くのか」と悩んでいる人に多く出会う。仕事にやりがいを感じない、誰にも褒められない、人間関係がうまくいかないなどといった悩みを抱えている人が多いようだ。
だが「そもそも人はなんのために働くのか」を考えてみてほしい。「やりたいことを実現するため」「夢をかなえるため」も正解だろう。しかしもっと根本的には、人は生活するために働いているのだ。自分自身を食べさせられてはじめて「一人前」だ。
だから「お金のために働く」というのは決して悪いことではない。それは当たり前で、立派なことである。もちろん直接お金になっていなくても、旦那さんや奥さんをサポートして家庭を守ること、子どもや家族のめんどうを見ることも、大事なお仕事だ。
著者自身、田舎の子だくさんな家庭で育ち、早く働き口を探す必要があった。そんなときに開業医の叔父が「医者になるなら学費のめんどうを見る」と言ってくれ、医者の道を目指すことにした。やりたいかやりたくないかではなく、それしか選択肢がなかったわけだ。その後、特に野望もなく、子どもを育てるために働いてきた。子どもたちもすでに独立し、著者も「ええ歳」になったからやめたい気持ちもあるが、長年通ってきてくれている患者さんもいてなかなかやめられない。流れに身を任せているうちに約70年が経っていた。
「生きがい」「己の成長」よりも、自分を食べさせられるようになるのが先決だ。その後に余裕があったらボチボチ考えていけばいい。人生は長いのだから。
「仕事を好きにならなければならない」「仕事は楽しまなければならない」とまじめに考える必要はまったくない。もちろんやりたくて仕方がないことに出会えればいいが、それは宝くじに当たるようなものだと思っておこう。「働いていれば、いつか好きな仕事に出会えるだろう」というくらいの気持ちでいたほうが、ストレスがたまらないですむ。
仕事は、「やらないよりは、やるほうがマシかな?」というくらいのモチベーションがいい。そうすると過剰に期待をしなくてすむし、めんどうくさいこともイヤなことも「まあ、ときどきはそういうことも起こるだろう」とおおらかになれる。その中で、ふと嬉しいことがときどきあれば十分だ。
他人への不満はなくなることがない。ものすごくイヤな人や合わない人がいたら、その人とは思い切って離れてしまうのが一番いいだろう。仕事を変えたりパートナーを変えたりするわけだ。ただその人から離れたとしても、イヤな人、合わない人は不思議と出てくる。100%満足できる環境などないものだ。
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