「遊び」の定義は何か。ソファーでごろごろするのは遊びだろうか。お風呂でのんびりするのは? 著者が心身の健康のために実践している「朝散歩」はどうだろう?
本書における遊びの定義は「仕事以外の楽しい活動」だ。この定義に照らすと、冒頭で挙げた「ソファーでごろごろ」「お風呂でのんびり」「朝散歩」は「遊び」だし、ジョギングや掃除も、楽しめるなら遊びになる。楽しいと感じるなら仕事も遊びだが、本書ではわかりやすさを優先し、生活を「仕事」と「遊び」に区分した。
仕事や職場の人間関係がつらいなら、「遊び」を有意義に過ごすことを意識しよう。本書では、1日数時間の「遊び」時間を使って効果的にストレスを発散し、リフレッシュする方法を紹介している。
イソップ寓話の「アリとキリギリス」。冬になると蓄えのないキリギリスは餓死し、蓄えのあったアリは生きながらえるという話だ。
精神科医である著者は、この話が嫌いだ。楽しみを先送りにした結果、病気などによって、楽しみを享受できなかった人を数多く見てきたからだ。我慢を続けて楽しみを後回しにするアリ的生き方か、毎日を楽しむキリギリス的生き方、どちらが幸せだろうか。
「仕事ができる人」を思い浮かべてみよう。そうした人たちの多くは、歯を食いしばって働くのではなく、楽しそうに仕事をしているのではないだろうか。
なぜ楽しめる人が成功するのか。脳科学的な理由はシンプルで、ドーパミンを味方にしているからだ。ドーパミンは別名「幸福物質」とも呼ばれ、目標を達成したときやボーナスが入ったとき、人からほめられたとき、おいしいものを食べたときなどに分泌される。
ドーパミンは脳へのご褒美となる。ドーパミンを分泌すると、ポジティブな気持ちに包まれ、その気持ちをもう一度得たいと思い、「もっとがんばろう!」というモチベーションが湧いてくるのだ。
さらにドーパミンには、集中力や記憶力を高める力もある。「楽しむ人が成功する」は、脳科学的に正しいのだ。
楽しむ人は仕事ができる。では、仕事がつらい人には、どのような変化が起きているのか。
「つらい」「苦しい」状況が継続すると、ストレスホルモンのコルチゾールが分泌される。コルチゾールはモチベーションを下げ、記憶力を低下させる。通常は日中にのみ分泌されるが、ストレスがかかると昼夜問わず分泌されてしまい、身体の休息を阻害する。
つまり「つらい」「苦しい」が続くと、仕事ができなくなってしまうのだ。楽しく仕事をするか、つらい気持ちで仕事をするか。さて、あなたはどちらを選ぶだろうか。
遊びで養われる能力はたくさんある。そのうちもっとも重要なのは「創造性」(クリエイティビティ)だ。「人から言われたことをそのままやるだけの仕事」は、この先間違いなくAIとロボットに置き換えられていく。私たち人間は、AIやロボットの持ち合わせていない「創造性」で勝負するほかない。
もっと具体的に言えば、「インプット仕事」から「アウトプット仕事」へシフトしていく必要がある。指示通りにこなすインプット仕事に対し、アウトプット仕事は自分なりのアイデアなどといったオリジナリティを加えるものを指す。これからの時代は、インプット仕事はロボットがこなしてくれるため、創造性を備え、アウトプット仕事ができる人間が成功するだろう。
創造性は、「インプット仕事」だけをがんばっていても鍛えられない。だからアフター5、「遊び」の中で創造性を鍛えよう。あまり難しく考える必要はない。凝り固まった発想をほぐすだけでもトレーニングになる。会ったことのない人と会ったり、降りたことのない駅で下車したり、初めてのメニューを注文したりするのもいい。
遊びには「良い遊び方」と「悪い遊び方」がある。ドラマ鑑賞がいくら楽しくても、睡眠時間を削ってまで没頭し、仕事のパフォーマンスが下がるようでは、「良い遊び方」とは言えないだろう。
良い遊び方の条件は4つある。1つ目は「楽しい」こと。漫然とスマホを見つづけたり、気を遣ってばかりの飲み会に参加したりしたあと、心から「楽しかった」と思えるだろうか。やり終わってから後悔するようなら、それは「悪い遊び方」である。「楽しい」時間を増やして、「楽しくない」時間を減らそう。
2つ目は「リラックス」だ。昼は仕事に集中し、夜はリラックスして体力を回復させて、翌日100%のパフォーマンスを出すのが、理想的な働き方・遊び方だ。
3つ目は「ストレス発散とリフレッシュ」。ストレス発散のために朝まで遊んでも、それで睡眠時間が減ってしまっては、かえってストレスをためる結果になる。「明日もがんばるぞ!」と思える遊びこそ、良い遊びだ。
4つ目は「脳の活性化」。運動はBDNF(脳由来神経栄養因子)を分泌し、脳の働きを良くする効果がある。アートで美意識を養うとビジネスに役立つ。知らない人と交流すると、コミュニケーション力が養われる。つまり「良い遊び方」をすれば、脳が活性化し、記憶力や集中力、コミュニケーション力などが伸びることが期待されるといえる。
遊ぶ時間に価値を感じない人は、遊びに何かを掛け合わせて付加価値を生み出そう。本書では遊びの効果を最大化する6つの「掛け算」が紹介されるが、要約ではそのうちの2つを紹介する。
1つ目は、「遊び×アウトプット」だ。「インプット→アウトプット→フィードバック」のサイクルを回せば自己成長できるのと同様、遊びにおいても「インプット→アウトプット→フィードバック」のサイクルを回せれば、人間はどんどん成長していく。
たとえば、本を読んだら、感想とともに「TO DO(すべきこと、したいこと、日々の行動に取り入れたいこと)」を3つ書き出し、それを意識して行動する。さらに、その行動を踏まえて、自分の現状を見直し、次の本を読んで行動に移す……というサイクルを繰り返せば、飛躍的に成長するはずだ。他の遊びでも、気づきやTO DOを得て自分の行動を変えられるなら、必ず成長につながる。
2つ目は「遊び×時間術」。「暇ができたら遊ぼう」と思っていては、いつまでも遊べない。忙しいからこそ、遊ぶ時間を確保し、遊びによって心と体を回復させよう。
遊ぶための時間をつくり出すコツは、スキマ時間を活用することだ。通勤時間を使って、読みたかった本を読んだり、見たかったアニメやドラマを視聴したりするのはどうだろうか。
スキマ時間を有効に使うためには、「15分のスキマ時間ができたらやりたい遊び」を決めておくとよい。そうすれば、移動時間やお昼休みでも気軽に遊べる。
遊ぶ時間をつくり出すには「ケツカッチン仕事術」もおすすめだ。忙しいときほどあえて遊びの予定を入れ、自分を追い詰める。終わりの時間が決まっているからこそ集中力が増し、意外なほど仕事が片付くだろう。著者の場合、忙しい日は19時からの映画のチケットを予約しておき、時間までに必死で仕事を終わらせるようにしている。
ここからは、遊び方の応用編だ。脳のトレーニング効果をさらに高める遊び方を2つ紹介する。
1つ目は「工夫する」。同じことを同じように続けているとマンネリ化し、幸福物質ドーパミンの分泌が減って、同じ「楽しさ」「おいしさ」「満足度」が得られなくなってしまう。工夫を加えて変化を生み、長く楽しめるようにしよう。
たとえば、カップラーメンを食べるとき。食べたことのないものを選んでみる、作り方をしっかり読んで作る、ぴったり3分で食べられるように万全の準備を整える、トッピングを用意する、感想をSNSに投稿する、「ちょい足し」して「味変」する、スープを使ってリゾットを作る……たった数百円のカップラーメンでも、さまざまに工夫する余地がある。この工夫は、アウトプット仕事や創造性のトレーニングになるだろう。
「お金がないから遊べない」という人は多いものだが、お金をかけなくても楽しめることは山ほどある。人生を豊かに、幸せに生きるために、「毎日の生活の中の小さな楽しみ」を見つけてはどうだろう。著者は3つの「プチ楽しみ」をもっている。
1つ目は「豆苗ガーデニング」。豆苗の根と種の部分をプラスチックの容器に入れておき、水をやって世話をして、伸びてきた茎と葉を収穫するのだ。栄養たっぷりの豆苗をお得に食べられるだけでなく、植物の成長を見守る楽しみが生まれる。植物や生き物を育てると「愛・つながりの幸福物質」であるオキシトシンが分泌されるのだ。
2つ目は「アップグレード」だ。牛乳や卵、納豆などといった日々の生活食材を選ぶとき、敢えて1つグレードの高いものを選んでみる。わずか数十円の投資で、食べるたびに「おいしいなあ」と思えるなら、こんなに安い買い物はないはずだ。プチ贅沢に慣れてしまわないよう、同じものばかりをアップグレードするのではなく、「今日は牛乳を」「今日は卵を」といったふうに「プチ贅沢のローテーション」を組むといいだろう。
3つ目は「トッピング」だ。ラーメンやそば、うどん、カレーなどの店でトッピングを注文すると、想像以上の「優越感」と「満足感」を得られる。自分が今まで食べたことがないものや未知の組み合わせにチャレンジすれば、創造性が刺激されるはずだ。
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