和田氏は、精神科医として多くの高齢者を診てきた経験から、「老化」は意欲や新しいことへの対応能力、クリエイティビティなどといった能力から始まるという。記憶障害や知能障害が起こるよりも先に、脳の前頭葉機能が衰えてしまうのだ。
日本では、企業活動や政府・自治体の新型コロナ対応などにも見られるように、前例踏襲型の思考が一般的だ。そんな環境で暮らしていると、前頭葉がどんどん衰えていき、「面白くない老人」になってしまう。前頭葉機能、つまり新規のことに対応する能力を鍛えることで、脳の老化を食い止め、危機対応能力やクリエイティビティを衰えさせないようにしなければならない。さもないと、日本社会はAI時代に対応できないだろう。
中野氏は「右脳理論」「左脳理論」という考え方に否定的だ。左右の機能分化はあるものの、左脳が論理で右脳が芸術という理論にはエビデンスが乏しく、信用できないと考えている。
和田氏もその見解に賛成だ。注目すべきは右脳/左脳ではなく、前頭葉機能と知能との関係であり、「EQ」であると考えている。「EQ」(Emotional Intelligence Quotient)は、心の知能指数と訳され、感情を上手に管理、コントロールする能力を指す。
アイオワ大学のアントニオ・ダマシオ神経学部長が治療したエリオットという30代の患者は、弁護士として成功したものの、脳腫瘍におかされ、摘出手術を受けた。術後のエリオットは、仕事を途中で投げ出したり、どうでもいいことに妙にこだわったりするなど、性格がまるっきり変わってしまったのだという。その原因は、手術によって前頭葉が損傷したことにあると考えられている。
こうした話を受けて中野氏は、「頭のよさ」には、知能面と感情面があると指摘する。さらには、目先の問題を解決するための「やり方」暗記能力より、問題点を洗いだして、それを解決する方法を導きだす能力こそが本当の知性だと主張する。これから来る不確実性の時代に生き残っていくためには、この「本当の知性」を強化しなければならない。
「人に言われた通りのことができるのが頭がいいとか、ものを知っていることが頭がいいとする風潮は危険」と和田氏は指摘する。もちろん、ものを知っているのは悪いことではないが、それよりも知識の使い方のほうが重要なのだ。それなのに世間には「ものを知ることというのは、正しい答えをひとつ見つけることだ」と勘違いしている人が多いため、“バカな物知り”が増えるのだと和田氏は嘆く。
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