新しい状況に古いアイデアがぴたりと適合することがある。「最新が最良である」と考えられがちな軍事、医学、心理学などの分野でも、古典ともいえる過去のアイデアが現代の問題を解決してきた事例はこれまで多くあった。
発表された当時はまったく無視され、嘲笑さえされたアイデアでも、時が満ちて正しかったと証明される場合もある。手洗いの重要性がいい例だ。19世紀のウィーンの医師ゼンメルヴァイスは、ある診療所における妊婦の死亡者数があまりに多いことに着目し、医学生たちに死体を取り扱った後は普通の石鹸と水ではなく、さらし粉水溶液で手を入念に洗うよう推奨した。そして実際にその数カ月後、診療所での妊婦死亡率はゼロになった。
ゼンメルヴァイスはこの成功体験を、できるかぎりヨーロッパに広めようとした。しかし彼の考えは当時、ヨーロッパの権威たちにはまったく受け入れられなかった。そんな考えは非科学的で根拠に乏しいと見なされてしまったのだ。
ところが最近になって、ゼンメルヴァイスの教訓がふたたび呼び起こされることがあった。2004年に小児科医のドン・バーウィックは、「病院スタッフの衛生改善によって、患者の感染症のリスクを90%以上できる」というあまり知られていない論文を見つけ出し、衛生改革の必要性を叫んだ。この主張に対しては反発する者や受け流す者もいたものの、実際にこの施策を導入した病院では、18カ月のあいだに10万人を超える患者の死亡を阻止できたと報告されている。
このように一度は見捨てられたアイデアから着想を得て、それが作用すると明らかになることもあるのだ。
古いテクノロジーを別の用途に使うことで、革新が起きるのは珍しいことではない。
製薬業界だと、古いものの新しい用途を見つけることは「リポジショニング」と呼ばれ、革新のための戦略のひとつとされている。たとえばLSDはいわゆるドラッグとして知られているが、現在はうつ病などの治療に役立つと考えられている。
また中国の古典的な兵法書である『孫子』は本来の役割を超え、投資家やスポーツのコーチ、マフィアやスパイにまで参考にされている。
もしアイデアが消滅寸前に見えたり、まるきり的外れだったりする場合、まったく新しい文脈に投入してみるのもひとつの方法だ。
アイデアの中には、時代を先取りしすぎたものもある。革新的なアイデアは権力者に挑戦的な内容だったり、まだ必要と思われなかったり、大胆すぎる概念の転換を含んでいたりするので、なかなか最初は受け入れられないのだ。たとえば民主主義の定着や奴隷制の廃止には長い時間がかかったし、ときには科学やテクノロジーが受け入れられないこともある。
アイデアが正当化されるまで、数百年あるいは数千年かかることもある。現在では珍しくなくなった電子タバコも、こうしたアイデアのひとつだった。
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