文章力を向上させるためには、「編集者の視点をもって執筆する力」(=「編集執筆力」)が必要だ。編集者の価値は2つ。「常に読者の視点で考えること」と「伝わる内容にすること」だ。この2つを備えていれば、単なる「文章力」ではなく「編集執筆力」があるといえるだろう。
まず、「常に読者の視点で考えること」。この価値を理解するには、ライター業務と編集業務の違いを理解している必要がある。
本づくりには、企画、取材、執筆、編集、校了、販売という6つのフェーズがある。ライターの業務範囲は、取材と執筆だ。一方、編集者は、6つのフェーズをすべて担当する。常に販売フェーズのことを念頭において内容を作り込み、文章に編み込んでいく。
編集者は決して読者の存在を忘れない。企画フェーズにおいて設定した読者層に合わせて表現を変えたり、構成を組み替えたりといった工夫をこらす。「誰に」「何の目的で」「何を伝えるか」の3つの軸を明確にしつつ文章を組み立てていくのが、編集者の仕事だ。
編集者は、ライターや著者が書いた原稿に手を加え、読者にとって読みやすい形へと文章を整えていく。具体的には、句読点の位置や「てにをは」をはじめとした文法の修正、文章の構成の整理などを行う。
では編集者は、相手に「伝わる」文章を生みだすために、どのような基準で原稿を修正しているのか。その基準は5つある。
(1)相手の見る視点(横軸)と合っている:たとえば、会社で企画書を提出した際、「なんか違うから書き直して」と言われたとする。こうしたことはなぜ起こるのか。その原因として考えられるのは、視点の横軸のズレだ。上司は今後の事業分野の「成長性」を見ているのに対し、部下は事業展開の「実現可能性」を見ているのかもしれない。
(2)相手の見る抽象度(縦軸)と合っている:何かを説明するとき、細かい部分まですべて伝える必要はない。相手にとって必要な情報だけを選ばなければ、むしろ伝わりにくくなってしまう。
(3)自分の言葉を不用意に使わない:読者が使っていない独自の言葉は使うべきではない。
(4)相手の業界の言葉、専門用語を使っている:業界用語・専門用語は、業界に属さない人にはわかりづらいものだ。だが、業界内の人たちにとっては馴染み深いものなので、使った方が伝わりやすくなることもある。
(5)相手の過去の経験と合っている:身だしなみが悪い新入社員に対して「社会人なのだから、気をつけろ」と言っても、社会人経験の浅い相手には十分に伝わらないだろう。「身だしなみの悪い人がサークルの部長になったことはあるか?」などと、新入社員の経験に合わせた表現をすれば、本質的な意味を理解してもらいやすくなる。
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