相手に言いたいことがうまく伝わらないときには、主に4つの原因がある。まず、伝わらない原因の1つとして、話し手が「受け手という存在を認識・理解していない」という点が挙げられる。言葉を発したら、それは必ず「受け手」をつくる。言葉を発した本人は「送り手」となり、相手は「受け手」となる。
しかし、多くの人が「送り手→受け手」の構図を意識していない。受け手ではなく送り手の尺度で判断して伝えるため、受け手にうまく伝わらないという事態になる。不用意な発言と誤解されたり、謝罪が謝罪と捉えてもらえなかったり、時には炎上したりすることさえある。
言葉は常に送り手の「欲望」を発している。受け手を自分の望む方向へ動かしたいという欲望である。例えば、「お腹がすいたなぁ」と誰かに向かって言ったとしよう。この場合、「食事に一緒に行ってほしい」という欲望を提案していると考えるのが普通だ。企画書や論文を書いていても、「読んで評価してほしい」。愚痴をこぼしても「聞いてほしい」。
送り手にとっては提案なのだから、同意以外求めてはいない。しかし、送り手の欲望(提案)はしばしば、あっけなくはね返される。受け入れるも拒絶するも受け手の自由なのだから。ここに「伝える」ことの困難さがある。
それでは、どうしたら受け手の同意を得られるのか。それは、「受け手の言ってほしいことを言ってあげる」ことである。受け手にとっての「ベネフィット(トク)」を伝えられれば、受け手は受け入れる方向に動く。
例えば、ある女子が彼氏へのクリスマスプレゼントとして、「手編みのセーター」を贈ったとしよう。「いまどき手編みのセーターなんて」と彼は思う。だが、そこに「エルメスに納品しているものと同じ紡績メーカーの毛糸を使った」と、その女子が伝えると、ブランド好きの彼は興味を持つようになった。
この例では、女子が「受け手の尺度」で考えて提案できたため、「エルメスに納品しているものと同じ紡績メーカーの毛糸を使った」という点が、ベネフィットとして機能した。しかし、もしも「送り手の推定するベネフィットと、受け手が認めるベネフィット」が違うと、たちまち機能しなくなる。ベネフィットの判断は、いかなる時でも受け手の尺度によるものだ。よって、送り手が受け手の尺度を持つしかない。
うまく伝わらない原因の2つ目は、「想像や発想のための『脳内データベース』が乏しいこと」である。著者は、「(何事も)経験(という)資本(あってのものだよ)主義」という意味を込めて、経験資本主義の重要性を説いている。
イメージとしては、頭の中に「(考えるための)水がめ」があると考えるとわかりやすい。そこがスカスカだと、どんなに相手のことを想っていても、表現すべきものが浮かばない。そこで「水がめ(脳内データベース)」に「経験」を潤沢に貯め込んでいくことが重要となる。そうすれば、ストックしたものを活用して、考えられる内容が広がり、豊かな表現につながる。逆に「脳内データベース」が貧弱だと、発想も貧弱になってしまう。よって、「経験」を蓄え続けるしかないのだ。
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