日本の時間当たりの労働生産性はOECD加盟36カ国のうち20位で、G7の中では50年近くも最下位である。しかも日本の実質GDP成長率は、アメリカ、ユーロ圏、日本という3つの先進地域の中で最低だ。世界で一番高齢化が進んでいる国だからこそ、高齢化に伴う出費を取り戻すために一番成長しなければならないにもかかわらずだ。
それだけではない。日本の正規雇用の社員の労働時間は年間で2000時間超と、1990年代のはじめからほとんど減少していない。一方、人口動向や資源、化石燃料がないなど、日本と条件が似ているユーロ圏では、約1300~1500時間となっている。つまり日本は、ユーロ圏より長時間働いているのに成長率が低いのである。
要するに現在の日本は「骨折り損のくたびれ儲け」。この状態から脱却するためには、短い労働時間で生産性を上げ、相対的に高い成長を実現しなければならない。
高度成長の時代においては、朝から晩まで長時間働く工場モデルの働き方が理にかなっていた。だが現在、日本のGDPの4分の3以上は、サービス産業を主力とする第3次産業が占めている。つまりサービス産業の生産性を上げることが、国全体の生産性を上げることに貢献するといえる。
だが日本企業の働き方は、いまだに工場モデルのままだ。サービス産業に従事する人に長時間労働をさせていては、アイデアも成果も生まれない。長時間労働の工場モデルは、現代の働き方にまったく見合っていないといえよう。
工場モデルとサービス産業モデルとでは、社員に対する評価軸が異なる。工場モデルにおいては、「自分の頭で考える人」よりも、長時間の単純作業を繰り返すことができる人が評価される。一方、サービス産業モデルでは、自分の頭で新しいアイデアを生み出せる人が求められている。
AさんとBさんという2人の編集者がいたとしよう。Aさんは早朝から夜中まで、食事中も席を離れずに熱心に仕事をしている。だがAさんが編集した本はどれもあまり売れていない。一方Bさんは、10時ころに出社し、そのまま誰かとランチに出かけてしまう。残業もせず、定時になると飲みに行く。それでもいろいろな人からアイデアをもらい、ベストセラーを連発している。
この例でいうと、サービス産業モデルで評価されるのはBさんだ。
サービス産業モデルにおいては、さまざまな経験を積み、発想力や柔軟性を養って、斬新な発想やアイデアを生み出すことが求められる。そのためには、「メシ・風呂・寝る」が生活の中心にある長時間労働から、「人・本・旅」から刺激を受けられる集中短時間労働に切り替えるのが有効だ。長時間労働するのではなく、仕事の後に「人」に会ったり、「本」を読んだり、ときには「旅」したりして新しい情報や知識を取り込み、脳に刺激を与える。そうしないともはや、日本経済の発展は見込めないだろう。
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