仕事をするうえで、データや数字にもとづいて論理的に考えるロジカルシンキングの重要性はなかば常識化している。しかしロジックでは説明できない、感覚・感情、直感、勘などの「右脳」を働かせれば、より効率的に仕事の成果を上げることができる。
たとえば新製品を発売するにあたって、わかりやすくロジカルにプレゼンテーションしたにもかかわらず、経営陣に提案書が通らなかった場合を考えてみよう。このとき新製品はユーザー調査で好感触を得ており、市場調査、ユーザーのニーズ、新製品の競争優位性、競合の比較分析、収支計算などをそろえた企画資料も作成しているとする。
この企画が通らなかった理由は大きく分けて2つ考えられる。
パターンA:提案の完成度が低く、考えていたほどロジカルではなかった
パターンB:経営者が感覚的に提案を気に入っていない
このうちパターンBは、否定される理由が明確でない「とにかく反対」というパターンB1と、提案の細部にまで指摘がおよび、ロジカルに反論されるパターンB2に細分化できる。
企画書を再提案する場合、ロジカルシンキングで対応ができるのはパターンAの場合のみである。パターンB2も一見すると理詰めで対応できるように思えるが、実際は「提案が気に入らない」というのが根底にあるので、たとえ再提案をしたとしても、ロジカルに論理や数字を詰めるだけでは玉砕する可能性が高い。
必要なのは、提案が通らなかった理由を上司や周囲の人から探りだし、相手の心理状況を理解したうえで対策を立てることである。そのためには自分の右脳を働かせるとともに、相手の右脳を理解する必要がある。
成功している経営者には、特徴的な行動パターンがある。なかにはロジカルシンキングだと「成功確率が低いのでやめたほうがいい」と思えるような道を選んでいる人も少なくない。
たとえば自転車販売店のサイクルベースあさひの場合、製造小売(SPA)というビジネスモデルを自転車業界に持ち込んだことが、成功のカギとなった。しかしSPAを実現するためには、かなりの売り上げ規模が必要になる。最初から同社の創業者である下田進氏がSPAモデルを志向していたとは考えにくい。自転車小売店を始めたものの、なかなか顧客がつかなかったため、他の販売店では力を入れていなかった修理やアフターサービスを充実させたところ、満足した顧客が新車も買ってくれるようになったというのが真相であろう。そして結果的に効率的な店舗経営のノウハウが生まれ、PB(プライベートブランド)を製造できる規模まで大きくなったと推察できる。
つまり下田氏は、徹底的なロジカル分析で実行に移したわけではない。その都度悩んだことを試行錯誤して、選んだ道を理にかなうようにしたと考えるのが適切である。経験から気づいたことや感じたことなどの右脳的な感覚を、あとから左脳で理論武装したのだ。
このように仕事ができるビジネスパーソンは、多かれ少なかれ勘を上手に使っているといえる。
すでに納得済みだったはずの提案にもかかわらず、最終的な意思決定の場面で、責任者の1人が反対を表明し、決定が保留になってしまうことがある。その原因はどこにあるのだろうか。
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