クレイジーで行こう!

グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む
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グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む
著者
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クレイジーで行こう!
著者
出版社
出版日
2019年01月15日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

これは「世界が欲しがる会社」を作り上げるまでの3年間の記録だ。

著者の加藤崇氏は、人工知能で水道配管の更新投資を最適化するベンチャー「フラクタ(Fracta, Inc.)」のCEOを務めている。フラクタはアメリカで膨大な水道配管関連のデータを取得し、データを解析するソフトウェアを作って売っている会社だ。アメリカの上水道配管システムは2050年までに、100兆円分の水道配管を交換しなければならないとされており、ここを効率化することには極めて大きなポテンシャルがある。だが起業の常として、そこまでの道のりはけっして平坦な道ではなかったという。

そもそも著者は当初、石油・ガス産業をターゲットに、ロボット点検サービスを展開しようと考えていた。その後は水道配管にターゲットを移すのだが、そこで気づいてしまう。ロボットというハードウェアを売るよりも、上水道配管の劣化予測に関する分析ソフトウェアを売ったほうが、筋のよい選択ということに。これは「日本のロボット技術をアメリカに売り込む」という志をもっていた著者にとっては苦渋の決断であった。だがこのビジネスモデルの切り替えが功を奏し、2018年5月には水処理の世界的大手企業との資本業務提携も発表している。

本書は起業やスタートアップを目指している人にとってピッタリの一冊だ。スタートアップのリアルな日常を追体験できるし、スタートアップで押えるべきポイントについても語られている。そしてなにより新しいビジネスを生み出すには、クレイジーさが不可欠だと教えてくれる。

ライター画像
木下隆志

著者

加藤 崇 (かとう たかし)
1978年生まれ。早稲田大学理工学部(応用物理学科)卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東京三菱銀行等を経て、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者(兼取締役CFO)。2013年11月、同社を米国Google本社に売却し、世界の注目を集めた。2015年6月、人工知能により水道配管の更新投資を最適化するソフトウェア開発会社(現在のFracta, Inc.)を米国シリコンバレーで創業し、CEOに就任。2018年5月に株式の過半を栗田工業株式会社に売却し、現在も同社CEO。著書に『未来を切り拓くための5ステップ』(新潮社 2014)、『無敵の仕事術』(文春新書 2016)。現在、米国カリフォルニア州メンローパーク在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    思い切りやろう。どうせ失敗するなら、時速100キロで思い切り壁にぶつかるべきだ。
  • 要点
    2
    アメリカでは2050年までに、100兆円分の水道配管を交換しなければならないとされている。だが劣化配管の予測精度が低いため、実際には多くの配管がまだ使える状態にある。機械学習のアルゴリズムを用いれば、高い精度で水道配管の劣化予測が可能だ。
  • 要点
    3
    クレイジーは褒め言葉である。クレイジーとは、人とは違うことをやっているということだ。世の中にインパクトを与える事業を始めるのであれば、人と同じことをやっているようではいけない。

要約

2016年・始動

アメリカに「日本の旗」を立てに来た
ronniechua/gettyimages

2015年、著者は日本のロボットベンチャーのアメリカ法人を立ち上げ、アメリカ法人と日本の本社CEOも兼務するという、超多忙な日々を送っていた。

著者にとっては、これが経営に携わる2社目のロボットベンチャーだった。経営に携わった1社目のロボットベンチャーは、アメリカ国防省主催のロボット競技会で圧倒的な技術力を披露し、見事1位を獲得したシャフト(SCHAFT)だ。資金は乏しかったが、技術力は世界一のものを持っており、最終的にはグーグルに買収されている。

著者はその後、2社目となるロボットベンチャーに移り、日本のロボット技術をアメリカに導入しようと考えた。そして「日本市場で試して、それが成功したらアメリカに進出する」という正攻法を無視し、勝手に「日本ではなく、先にアメリカで売ります」と宣言するやいなや、アメリカ法人を立ち上げてCEOに就任したのである。そのような行動の裏には、「Make Japan Visible in the US(アメリカに日本の旗を立てる)」という確固たるビジョンがあった。

事業の相棒は、即決の男

「シリコンバレーにアメリカ法人を立ち上げる」と決めてから最初にした行動は、事業の相棒となる副社長を採用することだった。シャフトのときの同僚が、著者にも気が合いそう人物として紹介してくれたのがラース(Lars)氏である。

最初にラース氏と会ったのは、郊外にあるメキシコ料理店であった。彼の輝くばかりの眼差しと人柄を見て、初対面にもかかわらず「一緒にアメリカ法人の立ち上げをやってくれませんか?」と猛烈にプッシュした。するとラース氏は、なんと翌日には仕事を辞める決意をしてくれた。

ラース氏が前職に関する諸々の引き継ぎを終えると、サンノゼ空港からほど近いエリアにオフィスを借りた。ラース氏は2015年10月1日から正式にアメリカ法人の事業開発担当副社長に就任し、アメリカ法人のオペレーションをスタートさせた。

時速100キロで壁にぶつかろう
tommasolizzul/gettyimages

2016年4月20日、著者は飛行機でアリゾナ州フェニックスに向かった。全米ガス協会のカンファレンスに参加するためである。ガスの運搬やガス関連施設の点検業務をどのように効率化するかというものがテーマとして掲げられており、ガス管のロボット点検サービスをアメリカ企業に売ろうとしていた著者としては、参加することで関係各位に顔を売っておきたかったのだ。

配管のロボット点検サービスを導入してもらうためには、まず産業自体に親しまなければならない。ベンチャーと進んで一緒に仕事をしてくれる企業を探し出すことが必要だった。

こういうときラース氏とはいつも「思い切りやろう。そして、どうせ失敗するなら、時速100キロで思い切り壁にぶつかろう」と話した。このたとえを著者は非常に気に入っている。未来をつくろうとすると、うまくいかないことなんて日常茶飯事であり、毎日が失敗の連続だ。だからこそ小さな失敗を日々楽しもうとする精神が大事になる。もちろん同じ失敗を二度と繰り返さないようにすることは前提だ。

2016年・躍動

水道公社とのミーティング準備

2016年5月31日、翌日に迫った水道公社とのミーティングに向けて、社内で長時間のディスカッションをした。配管点検ロボットは石油やガス管の中を走り、パイプ爆発の原因となるキズ、パイプの厚みなどのデータを取得する。そしてこの技術は水道管にも適用できる。ガス管もそうだが、アメリカの水道管は経年劣化が激しく、そこかしこで日々水漏れが発生している状況だ。水道管は寿命100年と言われるが、50~60年経っているのにもかかわらず、ほとんどが修繕されていないという状況である。

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要約公開日 2019.03.03
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