2015年、著者は日本のロボットベンチャーのアメリカ法人を立ち上げ、アメリカ法人と日本の本社CEOも兼務するという、超多忙な日々を送っていた。
著者にとっては、これが経営に携わる2社目のロボットベンチャーだった。経営に携わった1社目のロボットベンチャーは、アメリカ国防省主催のロボット競技会で圧倒的な技術力を披露し、見事1位を獲得したシャフト(SCHAFT)だ。資金は乏しかったが、技術力は世界一のものを持っており、最終的にはグーグルに買収されている。
著者はその後、2社目となるロボットベンチャーに移り、日本のロボット技術をアメリカに導入しようと考えた。そして「日本市場で試して、それが成功したらアメリカに進出する」という正攻法を無視し、勝手に「日本ではなく、先にアメリカで売ります」と宣言するやいなや、アメリカ法人を立ち上げてCEOに就任したのである。そのような行動の裏には、「Make Japan Visible in the US(アメリカに日本の旗を立てる)」という確固たるビジョンがあった。
「シリコンバレーにアメリカ法人を立ち上げる」と決めてから最初にした行動は、事業の相棒となる副社長を採用することだった。シャフトのときの同僚が、著者にも気が合いそう人物として紹介してくれたのがラース(Lars)氏である。
最初にラース氏と会ったのは、郊外にあるメキシコ料理店であった。彼の輝くばかりの眼差しと人柄を見て、初対面にもかかわらず「一緒にアメリカ法人の立ち上げをやってくれませんか?」と猛烈にプッシュした。するとラース氏は、なんと翌日には仕事を辞める決意をしてくれた。
ラース氏が前職に関する諸々の引き継ぎを終えると、サンノゼ空港からほど近いエリアにオフィスを借りた。ラース氏は2015年10月1日から正式にアメリカ法人の事業開発担当副社長に就任し、アメリカ法人のオペレーションをスタートさせた。
2016年4月20日、著者は飛行機でアリゾナ州フェニックスに向かった。全米ガス協会のカンファレンスに参加するためである。ガスの運搬やガス関連施設の点検業務をどのように効率化するかというものがテーマとして掲げられており、ガス管のロボット点検サービスをアメリカ企業に売ろうとしていた著者としては、参加することで関係各位に顔を売っておきたかったのだ。
配管のロボット点検サービスを導入してもらうためには、まず産業自体に親しまなければならない。ベンチャーと進んで一緒に仕事をしてくれる企業を探し出すことが必要だった。
こういうときラース氏とはいつも「思い切りやろう。そして、どうせ失敗するなら、時速100キロで思い切り壁にぶつかろう」と話した。このたとえを著者は非常に気に入っている。未来をつくろうとすると、うまくいかないことなんて日常茶飯事であり、毎日が失敗の連続だ。だからこそ小さな失敗を日々楽しもうとする精神が大事になる。もちろん同じ失敗を二度と繰り返さないようにすることは前提だ。
2016年5月31日、翌日に迫った水道公社とのミーティングに向けて、社内で長時間のディスカッションをした。配管点検ロボットは石油やガス管の中を走り、パイプ爆発の原因となるキズ、パイプの厚みなどのデータを取得する。そしてこの技術は水道管にも適用できる。ガス管もそうだが、アメリカの水道管は経年劣化が激しく、そこかしこで日々水漏れが発生している状況だ。水道管は寿命100年と言われるが、50~60年経っているのにもかかわらず、ほとんどが修繕されていないという状況である。
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