THE ALMIGHTY DOLLAR

1ドル札の動きでわかる経済のしくみ
未読
THE ALMIGHTY DOLLAR
THE ALMIGHTY DOLLAR
1ドル札の動きでわかる経済のしくみ
未読
THE ALMIGHTY DOLLAR
出版社
かんき出版

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出版日
2018年11月12日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

世界中を見渡しても、アメリカドルほどの影響力を持っている通貨は他にない。日本円は日本でしか通用しないが、ドルはアメリカ以外の国でも採用され、大きな影響力を持っている。本書の監訳者を務めた池上彰氏によれば、アメリカドルが世界の信頼を得ている背景には、第二次大戦後に「基軸通貨」と定められたことがあるようだ。当時は、アメリカドルで支払いを受けた国がアメリカ政府に要求すると、金1オンスと35ドルが交換できる仕組みだった。

これは、世界大戦で戦場に金が集まっていたからこそ実現した仕組みだ。時代とともに、アメリカ以外の国が保有しているドルを金に交換しようとした場合、アメリカに金が足りなくなるという状況に陥った。ニクソン大統領がドルと金の交換を停止すると発表し、一時はドルの価値が転落したが、その後もドルは「世界のお金」であり続けている。

本書では、エコノミストのダーシーニ・デイヴィッド氏が、この「世界のお金」であるドルが世界を回る様子を描きながら、それぞれの国が抱えている経済問題を明らかにしていく。テキサスのスーパーで使われた1ドル札は、中国やナイジェリア、ドイツなどへと旅をしながら、最後にはアメリカへと帰っていくことになる。この旅の様子を読めば、なかなかイメージがつきづらいグローバル経済の機能を身近でわかりやすい問題として理解することができるようになるだろう。

ライター画像
池田明季哉

著者

ダーシーニ・デイヴィッド
エコノミスト、キャスター。イギリスのHSBC投資銀行の立会場でエコノミストとして働いていたときにBBCにヘッドハンティングされ、BBC1の「テン・オクロック・ニュース」「パノラマ」、BBCラジオ4の「トゥデイ」などのキャスターを務めた。BBCニューヨーク支局に転勤してからは、ウォール街の情報を伝える顔として活躍。また、大手スーパーマーケット「テスコ」の放送メディアに関するアドバイザーを務めた経験も持つ。2009年からイギリスのニュース専門チャンネル「スカイ・ニュース」でシティの中心から経済情報を日々伝えるようになり、同チャンネルの看板番組である「スカイ・ニュース・トゥナイト」のキャスターを務める。本書が初の著作となる。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代に生きる人々は、グローバル経済の仕組みのなかで生きている。私たち個人の行動は自分の意図とは関係なく、経済に影響を及ぼしている。
  • 要点
    2
    中国は、輸出によって貯め込んだドルで「米国債」を大量に購入し、大口保有として多額の利息を受け取っている。こうして貯め込んだ資金を安全かつ着実に増やし、アメリカに影響を及ぼすまでの経済成長を遂げている。
  • 要点
    3
    ドルは、銀行から銀行へと電子で取引されながら、世界中を回っている。収入として分配され、貿易や景気の潤滑油になり、権力の均衡を支えながら、世界全体をつないでいく。

要約

ドルの旅を通じてグローバル経済を解き明かす

もっとも信用の厚い通貨、ドル

誰しもグローバル経済の影響から逃れることはできない。「経済」と聞くと、貿易などの大きな動きをイメージするかもしれないが、経済や経済が持つ力は、個々の行動によって形づくられている。自分の意図とは関係なく、私たち個人の行動が経済に影響を及ぼしているのだ。

本書では、世界でもっとも信用の厚いアメリカドルが世界を駆け巡る様子を追いかけながら、経済の仕組みを考えていく。この旅はお金と権力の物語だが、それは私たち人間の物語でもある。旅のスタート地点はアメリカだ。

中国に支えられるアメリカ

中国依存の安売り商品
whyframestudio/gettyimages

テキサス在住のローレン・ミラーは、大型スーパーマーケットであるウォルマートにいた。ここはいわば「消費の大聖堂」。低価格で何でも揃う。彼女はささやかな贅沢として、格安ラジオを購入した。

ローレン・ミラーが買った商品は、彼女の家までの数キロしか移動しない。だが彼女が払ったドルは、ラジオの工場がある中国へと1万キロ以上の旅をすることになる。

低価格を維持するために、ウォルマートは中国との提携に強く依存している。2004年には180億ドル相当の商品を中国に発注しており、その額は2014年には3倍近くに増えたと予想されている。

2017年、アメリカは、3760億ドルにものぼる過去最大の貿易赤字となった。中国からアメリカへ5060億ドル相当を輸出したにもかかわらず、アメリカから中国への輸出は1300億ドルにとどまっている。その裏には、ウォルマートの中国依存がある。

中国製品とアメリカの生活
Chiradech/gettyimages

貿易には、「特化(スペシャリスト化)」という考え方がある。地元で必要とされる量以上の商品を生産すれば、地元の外と取引できるという考え方だ。これは国と国の間の貿易においても同じだ。自国で生産するより安く入手できる商品は他国から輸入する一方で、利益率が高い商品を多く生産し、輸出すべきである。ウォルマートが中国から安く商品を調達できるのは、中国がローテク商品製造のスペシャリストになったからだ。

一方、アメリカは温暖な気候と適切な土壌のもと、大豆生産の分野におけるスペシャリストとなった。高機能なハイテク機械や機器の販売でもアメリカが優位に立っている。

それぞれの国が自国のためだけに商品を作るという方向に向かわないのは、「比較優位」という考え方があるからだ。仮に、中国では航空機1機の製造が10万台のラジオの製造、アメリカでは2機の製造が10万台のラジオの製造に相当するとすれば、飛行機製造でアメリカに「比較優位がある」という言い方ができる。どちらの国も比較優位がある商品の製造に特化すれば、全体として生まれる商品の数は最大になる。これを自由貿易でやりとりすれば、より多くの商品をよりコストをかけずに生み出すことができるというわけだ。コストが下がれば販売価格も下がり、消費者にとって使えるお金が増える。

物価が下がると生活費も下がり、インフレーションの抑制につながる。つまり、中国製の安い商品のおかげでアメリカの金利が低く抑えられ、世帯や企業の借り入れにかかるコストが下がっているともいえる。

グローバル化の代償

グローバル化や自由貿易によって、消費者や国家全体が豊かになっているように見えるかもしれない。だが、その恩恵を受けていないと感じている人がたくさんいることも事実だ。ウォルマートが中国から商品を輸入するせいで、この12年のあいだにアメリカの製造業で40万以上の雇用が失われたという調査がある。

中国はどうだろう。

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要約公開日 2019.03.12
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