日本人の勝算

人口減少×高齢化×資本主義
未読
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日本人の勝算
ジャンル
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2019年01月24日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

在日30年、伝説のアナリストとも呼ばれたデービッド・アトキンソン氏による話題の一冊だ。人口減少・高齢化というパラダイムシフトが起きるなか、このままだと日本は三流先進国どころか途上国にまで転落するかもしれない――アトキンソン氏はそう警笛を鳴らす。だが一方で、日本がふたたび一流先進国に返り咲くための勝算もあるという。

本書では118人の外国人エコノミストの分析をもとに、人口減少・高齢化がもたらす難局を乗り切るための方法が考察され、日本経済が再生するための具体案が提示される。日本では今後、人口減少と高齢化によるデフレ圧力が深刻化するため、デフレスパイラルに陥る可能性が高い。そうした状況下で生き延びるには、生産性を高めて「高付加価値・高所得経済」の国へと転換しなければならないというアトキンソン氏の主張は理にかなっている。

本書が提言している生産性を向上させる具体的な施策は次の4つにまとめられる。(1)供給過剰を調整するための輸出振興、(2)企業規模拡大のためのM&A促進、(3)最低賃金引き上げ、(4)本格的な人材育成トレーニングの確立。本要約ではこのうち、アトキンソン氏がもっとも重視していると思われる最低賃金引き上げの項を主として取り上げた。

すべての日本人におすすめできる一冊だが、とくに政府関係者や経営者に読んでほしいと強く願う。読み終える頃には、これまで見えていなかった日本の可能性が見えてくるだろう。

ライター画像
木下隆志

著者

デービッド・アトキンソン
1965年イギリス生まれ。日本在住30年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。
小西美術工藝社社長。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。
『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『新・所得倍増論』『新・生産性立国論』(いずれも東洋経済新報社)など著書多数。2016年に『財界』「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    高齢化と人口激減により、今後デフレ圧力が深刻化していくのは疑いない。
  • 要点
    2
    デフレ圧力が深刻化する状況下で生き延びるには、生産性を高めるとともに、「高付加価値・高所得経済」への転換が不可欠である。
  • 要点
    3
    日本の生産性は世界第28位と低迷しているが、人材評価では世界で第4位だ。そのため生産性の伸び代は大きい。
  • 要点
    4
    日本において生産性向上が期待できる経済政策は、最低賃金引き上げである。高齢化と人口激減という難局を乗り切るには、政府による継続的な最低賃金引き上げが必須だ。

要約

人口減少×高齢化によるデフレ

デフレ圧力の深刻化

日本経済はバブル崩壊後の金融危機を経てデフレに突入して以降、いまだにデフレを脱出できていない。

政府は「デフレ脱却」に向けてインフレターゲットを設定し、それを達成するまで大胆な金融緩和を講じる経済政策(アベノミクス)を実施した。たしかにこの政策により円高が是正され、株価が大幅に上昇するなど、日本経済は快方に向かっているように見える。

しかしこれは一時的に成果が出ているだけだ。なぜなら2020年以降、人口減少によるデフレ圧力がますます深刻化するからである。

デフレ圧力の要因(需要サイド)
Ca-ssis/gettyimages

なぜデフレ圧力が深刻化するのか。需要サイドでは2つの要因が挙げられる。高齢化と人口激減だ。

世界を見渡してみると、高齢化社会を迎える国は多々ある。しかし欧米では少子高齢化は進んでいても、人口減少は日本ほど深刻ではない。ところが日本は、高齢化よりもさらに重要な「人口急減少」という問題も同時に抱えている。つまり日本は「少子高齢化と人口減少問題を同時に考えなくてはいけない唯一の先進国」なのだ。

人口減少はそれだけでも大きなデフレ要因である。そして少子高齢化は、人口減少によるデフレに拍車をかけ、デフレをさらに深刻化させてしまう。

デフレ圧力の要因(供給サイド)

人口減少によって市場が縮小すると、いまあるすべての企業が生き残ることは不可能だ。たとえば消費者の減少によって、10社の企業を支えてきた需要が8社しか支えられない規模に縮小したとしよう。するとどの会社も、生き残る8社に入るように努力する。生き残りをかけた企業間の競争が激化するのである。

この生存競争でもっとも安易な戦略は、価格を下げて他の企業の体力を奪い、倒産に追い込むことだ。最後まで残った企業は競合先がいなくなるので、最終的に大きな利益を得ることができる。これを「Last man standing利益」と呼ぶ。この行動は強烈なデフレ要因となる。

この戦略を実行する企業は、最初に利益を削ろうとする。しかし利益が乏しくなると、労働者にしわ寄せがくる。経営者が人件費を圧縮しようとするからだ。これは非正規の増加、ボーナスの削減、サービス残業の増加など、ここ何十年にもわたって日本で行なわれてきたことそのものである。すると企業利益のうち、労働者の取り分を表す労働配分比率が低下する。英国銀行の分析によると、労働配分比率の低下は大きなデフレ要因だ。

ただし資本主義下におけるLast man standing戦略は、経営側にとっては合理的な選択ということも強調しておかなければならない。

人口減少下では量的金融緩和策に効果はない
Andrii Yalanskyi/gettyimages

金利を下げて量的緩和をしていけば、需給のギャップを埋めてインフレにもっていけるため、「金融政策でインフレ誘導は可能」だと主張する人もいる。この主張は簡単にいえば、「通貨の量を増やせば物価が上がる。物価が上がればすべての問題は解決できる」ということだ。

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要約公開日 2019.03.15
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