日本経済はバブル崩壊後の金融危機を経てデフレに突入して以降、いまだにデフレを脱出できていない。
政府は「デフレ脱却」に向けてインフレターゲットを設定し、それを達成するまで大胆な金融緩和を講じる経済政策(アベノミクス)を実施した。たしかにこの政策により円高が是正され、株価が大幅に上昇するなど、日本経済は快方に向かっているように見える。
しかしこれは一時的に成果が出ているだけだ。なぜなら2020年以降、人口減少によるデフレ圧力がますます深刻化するからである。
なぜデフレ圧力が深刻化するのか。需要サイドでは2つの要因が挙げられる。高齢化と人口激減だ。
世界を見渡してみると、高齢化社会を迎える国は多々ある。しかし欧米では少子高齢化は進んでいても、人口減少は日本ほど深刻ではない。ところが日本は、高齢化よりもさらに重要な「人口急減少」という問題も同時に抱えている。つまり日本は「少子高齢化と人口減少問題を同時に考えなくてはいけない唯一の先進国」なのだ。
人口減少はそれだけでも大きなデフレ要因である。そして少子高齢化は、人口減少によるデフレに拍車をかけ、デフレをさらに深刻化させてしまう。
人口減少によって市場が縮小すると、いまあるすべての企業が生き残ることは不可能だ。たとえば消費者の減少によって、10社の企業を支えてきた需要が8社しか支えられない規模に縮小したとしよう。するとどの会社も、生き残る8社に入るように努力する。生き残りをかけた企業間の競争が激化するのである。
この生存競争でもっとも安易な戦略は、価格を下げて他の企業の体力を奪い、倒産に追い込むことだ。最後まで残った企業は競合先がいなくなるので、最終的に大きな利益を得ることができる。これを「Last man standing利益」と呼ぶ。この行動は強烈なデフレ要因となる。
この戦略を実行する企業は、最初に利益を削ろうとする。しかし利益が乏しくなると、労働者にしわ寄せがくる。経営者が人件費を圧縮しようとするからだ。これは非正規の増加、ボーナスの削減、サービス残業の増加など、ここ何十年にもわたって日本で行なわれてきたことそのものである。すると企業利益のうち、労働者の取り分を表す労働配分比率が低下する。英国銀行の分析によると、労働配分比率の低下は大きなデフレ要因だ。
ただし資本主義下におけるLast man standing戦略は、経営側にとっては合理的な選択ということも強調しておかなければならない。
金利を下げて量的緩和をしていけば、需給のギャップを埋めてインフレにもっていけるため、「金融政策でインフレ誘導は可能」だと主張する人もいる。この主張は簡単にいえば、「通貨の量を増やせば物価が上がる。物価が上がればすべての問題は解決できる」ということだ。
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