現在、高い自己肯定感を持つことや「自分を愛すること」が、まるで義務であるかのように考えられている。
「自己肯定感」運動の主眼は「自意識(アイデンティティ)」である。つまり、自分が成功するにふさわしいとは考えないような、自己肯定感の低さが成功を妨げる。自己肯定感が低いと、わざわざ失敗するようにふるまい、みじめな人生を送るというわけである。一方、自己肯定感が高い人は困難に立ち向かい、成功を収めるというのだ。
しかし、「自己肯定感が高くなければ成功を収められない」というのは間違いである。偉人の伝記を読めば、偉人の多くは自己肯定感が低いことがわかる。「セルフイメージの問題がデカくて、とても自己肯定感が低い」(デヴィッド・ボウイ)。トーマス・エジソン、エイブラハム・リンカーン、マザー・テレサなども自己肯定感が低かったという。
彼らに成功をもたらしたのは、自己肯定感のような自意識ではない。自分が創り出したい成果を実現しようとする力であった。
自意識が人生を形作る重要な要素だと考えている人は、自分に制約を設けている。それはなぜか。何かを学ぶときには、自分を無能に感じる時期が訪れる。自意識が働くと、人は自分が無能に見えないようにしようとする。そうすれば、人生で実現したい成果を生み出すために必要な能力を得られなくなってしまう。
一方で、学ぶこと自体にフォーカスしていれば、自分のことをどう思うかは関係なくなる。もっと有益な「自分は、行きたいところにどれくらい近づいているか」を指標とするようになるからだ。
コロンビア大学の調査によると、アメリカの親の85%は、子どもに「あなたは頭がいい」と褒めるのが大切だと考えている。はたしてこれは本当なのか。
キャロル・ドゥエック教授は400人の小学5年生を集めて2グループに分け、簡単な問題を解かせた。その後、片方のグループの子どもたちには「よくできたね」と褒めた。もう片方のグループの子どもたちには褒めなかった。
つづいて、子どもたちに簡単な問題、難しい問題のどちらを解くかを選ばせた。すると、褒められなかったグループの子どもたちの90%以上が、難しい問題を選んだ。一方、褒められたグループの子どもたちの大半が、簡単な問題を選んだ。要は、褒められることで、より高い成果を求めて困難に挑戦する意欲が失われたのだ。
「自分を愛することこそが人生の大仕事」。こうした社会からの働きかけは有害である。自分自身にフォーカスすればするほど成果が出なくなるのだから。フォーカスすべきは「自分は何者なのか」ではない。「自分にとって大切なことをどれだけ創り出せているか」である。そうすれば、必要な能力を身につけ、創り出したい成果を創り出せるようになる。
人生の中には見えない構造があり、その構造が物事を決定している。大きく分けて2つのパターンがある。
1つが「揺り戻しパターン」だ。前に進んだら後ろに戻る。あるいは、頑張って目標を達成しても手に入れた成果を失ってしまう。もう1つが「前進するパターン」だ。成果を上げると、それが次の成功に向けた土台となる。このパターンによる成功は長続きする。
「揺り戻しパターン」の構造下にあると、何が起きるのか。実は、どんなに強い決意のもとで努力しようと、どんなに有能であろうと、成功は長続きしないのである。
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