<効果的な利他主義>宣言!

慈善活動への科学的アプローチ
未読
<効果的な利他主義>宣言!
<効果的な利他主義>宣言!
慈善活動への科学的アプローチ
未読
<効果的な利他主義>宣言!
出版社
みすず書房

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出版日
2018年11月01日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.5
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

ある失敗談から本書は始まる。

トレバー・フィールドは南アフリカのごく普通の中年男性だった。あるとき「プレイポンプ」という新型ポンプを使って、貧しい農村の女性たちの水汲みをもっと楽にしようと思い立った。プレイポンプは、メリーゴーランドのようなポンプだ。子供たちがメリーゴーランドに乗っかりぐるぐる回すと、その動力で地中から水を汲み上げる。子供たちの遊ぶ力で村に水を安定提供できる、画期的な発明に思えた。フィールドが慈善団体を設立し普及に乗り出すと、プレイポンプは多くの注目を浴びた。

しかし状況は急に暗転する。プレイポンプの実用性に疑義が呈されたのだ。実はプレイポンプの実用性について、まともに考察した者はそれまでいなかった。検証を行なうと、プレイポンプは旧来型の手押しポンプと比べ、さまざまな欠点があるとわかった。

プレイポンプの推進者たちは、客観的な事実を無視し、感情に流されてしまっていたといえる。「遊ぶ子供たちによって村にきれいな飲み水を提供する」という魅力的なイメージに囚われていたのだ。この話の教訓は、「善意は必ずしも成功に結びつくとは限らない」ということである。

本書でいう「効果的な利他主義」とは、こうした失敗に陥ることを避け、世の中にできるかぎりよい影響を与えるための考え方だ。私たちには、世界をよりよい場所にするだけの力がある。本書はその一歩の踏み出し方を教えてくれるだろう。

著者

ウィリアム・マッカスキル (William MacAskill)
オックスフォード大学哲学准教授。非営利組織であるギビング・ワット・ウィー・キャンおよび80,000アワーズの共同創設者。生涯にわたる寄付者を募り、5億ドル以上を慈善事業におくるとともに、運動を進めている。『ニューヨーカー』『ガーディアン』『インディペンデント』『タイム』『ワシントン・ポスト』などに寄稿。

本書の要点

  • 要点
    1
    「効果的な利他主義」とは、手持ちの資源でできるかぎりのよいことを行ない、人々の生活を向上させようという考え方である。
  • 要点
    2
    世界の所得格差は大きいので、先進国の一般的な所得の人でも、貧困国の人々に対して非常に大きな影響を与えられる。
  • 要点
    3
    収穫逓減(ていげん)の法則によれば、注目と資源の集まっていない分野に支援をした方が、より大きい影響を与えられる。災害復興支援よりも貧困や公衆衛生に働きかけたほうが効果的だ。
  • 要点
    4
    寄付をするために稼ぐというキャリアは、あなたがいなくては起きなかった影響を及ぼす方法のひとつだ。

要約

どうすればよいことを最大限に行なえるのか

マイケル・クレマーの駆虫プログラム
KasiaJanus/gettyimages

経済学者のマイケル・クレマーはケニア滞在中、慈善団体ICSの活動に関与することになった。ICSは就学率やテストスコアの改善に取り組んでいた。

クレマーは「ランダム化比較試験」という手法で、プログラムを検証することを提案した。14校のうち7校でプログラムを実施し、残りの7校は普段のままにしておく。両者を比較することで、プログラムが効果的かどうかわかるというわけだ。

ランダム化比較試験は他の科学分野では定番の手法だが、開発業界で実施されることはほとんどなかった。試験の結果、教科書の支給や教員の増配など、教育向上のための常套手段は、実は目に見える改善効果がないとわかった。

そんなとき、クレマーが友人から提案されたのが駆虫プログラムだ。腸内寄生虫は先進国ではほとんど知られていないが、全世界では10億人以上が感染している。特許切れとなった薬が使えるので、実は安上がりな治療だ。

クレマーは、寄生虫の駆除の教育への影響を実験で確かめた。その結果、驚くべきことに、寄生虫の駆除は就学率を高める最も費用対効果のよい方法だと判明した。長期欠席はケニアの学校を悩ます慢性的な問題だが、駆虫により長期欠席は25%も減少した。治療コストから計算すると、子供ひとりを1日多く学校に行かせるのに、たった5セントしかかからない。

当然ながら教育だけでなく、健康や経済面でのメリットも大きかった。駆虫を受けた子供はそうでない子供よりも、週の労働時間が3.4時間長く、収入は2割も多かった。駆虫に関するクレマーの研究成果が発表される頃にはもう、彼の革命的なアプローチに追随する者が何人も生まれていた。

クレマーと妻のレイチェル・グレナスターは、駆虫プログラムの技術援助をする非営利組織「デウォーム・ザ・ワールド・イニシアティブ」を共同設立し、これまで4000万件以上の駆虫治療を実施した。慈善団体の独立系評価機関「ギブウェル」は、同団体を最も費用対効果のよい開発慈善団体のひとつと評価している。

効果的な利他主義のアプローチ
marchmeena29/gettyimages

マイケル・クレマーらの活動は駆虫という非常に地味なプログラムだったが、大きな成果を上げた。これは著者が「効果的な利他主義」と呼ぶ考え方を見事に体現している。「どうすれば最大限の影響を及ぼせるか?」と問い、客観的な証拠と推論で答えを導き出したからだ。

「効果的な利他主義」は「効果的」と「利他主義」の2つの要素からなる。「利他主義」とは単純に、他の人々の生活を向上させるという意味だ。いっぽうで「効果的」とは、手持ちの資源で、できるかぎりのよいことを行なうという意味である。

重要なのは、単に世界をよりよくするのではなく、できるかぎりの影響を及ぼそうとすることだ。そしてある行動が「効果的」かどうか判断するには、それが他のどの行動よりも優れていることを確かめなくてはならない。

効果的な利他主義の掲げる重要な問いとして、著者は次の5つを挙げる。

(1)何人がどれくらいの利益を得るか?

(2)これはあなたにできるもっとも効果的な活動か?

(3)この分野は見過ごされているか?

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要約公開日 2019.02.09
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