主人公の「田中修治」(以下、田中)はもともとデザイン企画に関する小さな会社を経営していた。そんな田中が低価格メガネのチェーン店「オンデーズ」の買収を決意したのは、オンデーズの身売り案件に関わったからだった。当初はオンデーズ売却の仲介に入るだけの予定だったが、自分なりに再生計画を考えるうち、自分なら再生できるのではないかと考え始めた。たしかに会社の資金繰りは火の車だったが、現場ではいきいきと働いているスタッフも多い。経営者が変われば十分再生できるというのが田中の見立てだった。
これに反対したのが「奥野良孝」(以下、奥野)である。奥野はメガバンクに就職後、大手の再生ファンドを経て、投資コンサルティングの小さなベンチャー企業に転職した人物だ。なにせ当時のオンデーズは、20億の売上しかないのに14億の負債を抱えていた。財務の専門家として数々の企業再生案件に関わってきた奥野にとって、オンデーズを買うという決断が無謀に映ったのは当然の話である。
それでも田中の決意は変わらなかった。オンデーズを3000万で買収すると、奥野も巻き込んでオンデーズ再生に着手することになる。だがそれは地獄の始まりでもあった。田中たちはすぐに「毎年20億の価値を創り出す会社」が、わずか3000万で売られていた理由を知ることになる。
筆頭株主となった田中は、オンデーズの代表取締役社長に就任した。だが30歳という若さで社長となった田中に対する社員たちの目は冷え切っており、しかもさっそく1千万の資金ショートが迫ってきている。初っ端からハードな銀行交渉をしつつ、経営回復のための施策を行なうことが求められた。
田中が思い描いていたのは、メガネ界のZARAになることだ。ZARAはもともと安さを武器に店舗を増やしていたが、あるときから方向転換し、値段を変えずに品質やファッション性を追求し始めた。その結果「低価格なのにお洒落で品質が良い」というイメージづくりに成功し、アパレル業界で世界一になった。
オンデーズもただメガネを安く売るのではなく、ファッション性を追求していけば、メガネ業界のリーディングカンパニーになれるというのが田中の見立てだった。「ダサいこのオンデーズをファストファッション アイウェアブランドにする」。お洒落になればスタッフも誇りを持って働けるようになるし、お店やスタッフが生まれ変われば、売上だってすぐに回復するという目論見だった。
だが現実は甘くなかった。最初から資金繰りに苦しみ、社員たちとは対立。思い切って立ち上げた新コンセプトの店舗も大失敗に終わった。幸い商品部の改革が順調に進んだため、すぐにショートすることはなかったものの、今度は新たに買収した雑貨販売のチェーン店「ファンファン」に足を引っ張られてしまう。というのも「同志」だったはずのファンファン前社長に、社内政治で裏切られてしまったのだ。
かろうじてファンファンの売却先を見つけ、なんとかオンデーズは救われたものの、高すぎる授業料を支払うことになった。
フランチャイズ事業が軌道に乗り、危機的状況から脱する道筋が少しずつ見えてきた。だが10億円前後の繰越損失と債務超過を抱えていたため、銀行からの融資はまったくあてにならなかった。もはや自分たちの産み出すキャッシュフローのみで、「成長」を実現しなければならない。
そうした状況のなか、田中が問題意識を抱いたのは「決定的な知名度不足」であった。
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