全国のどの学校でも宿題が出されている。その目的を問われれば、多くの学校関係者や保護者は「子どもの学力を高めること」「学習習慣をつけること」と答えるだろう。しかしそれで本当に目的が達成されるかは疑問だ。
自ら学習に向かう力を身につけ、学力を高めていくには、「わからない」問題を自分で理解していくプロセスが必要だ。しかし多くの宿題にはそのプロセスが欠けている。宿題は授業を理解している生徒にとって無駄な作業である一方、授業内容が理解できない生徒にとっては重荷になってしまっている。
フィンランドでは教員も子どもも「なぜ?」という言葉が口癖になっているという。疑問に思ったことはすぐ確認し、不合理な状況があれば改善・解決しようとする。そうした習慣を身につければ改善が進み、労働生産性が高まるのではないだろうか。
著者は麹町中学校長に赴任して2年目に、夏休みの宿題をゼロにし、日常的な宿題も段階的に減らしていった。そして赴任4年目を迎える頃、宿題の全廃に踏み切った。本当に大切なのは勉強時間よりも勉強の中身だ。自律的に学ぶ経験を積まないと、工夫して仕事ができる大人には育たない。
なによりも重要なことは、学校で学習すべき内容を理解できるようにすることであり、生徒たちが主体的に学ぼうとする仕組みを整えることなのだ。
著者が定期考査をなくそうと考えたのは宿題と同様、「目的を達成するための手段」として適切ではないということが理由だ。
あなたは定期考査の直前になってから躍起になって勉強し、テストに出そうな部分を一夜漬けで頭に叩き込んだことはないだろうか。一夜漬けでの学習は、学習成果を持続的に維持するうえで効果的とはとてもいえない。このような勉強方法で獲得した点数や評価は、その生徒にとっての最大瞬間風速にすぎない。テストを実施する目的は学力の定着を図ることなのに、目的と手段のねじれが生じているのである。
著者は麹町中学校に赴任して2年目から1学期の中間考査を廃止し、年5回あった定期考査を年4回とした。そして赴任5年目の2018年度からは、全学年で中間考査と期末考査を廃止し、代わりに学習のまとまりごとに単元テストを実施することにした。この単元テストは再チャレンジできるので、生徒は着実に学力を高められる。加えて年に3回あった実力テストを5回に増やした。実力テストは出題範囲が事前に知らされないので、生徒の本当の実力がわかるというわけだ。
多くの中学校で実施されている中間考査や期末考査は、通知表をつけるためにある。しかし学力を一定の時点で切り取って評価するのは無意味だ。たとえ途中の時点で問題が解けなかったとしても、最終的に習得できれば通知表に5をつけてよい。学習に早い、遅いは関係ないのだ。
「宿題の廃止」「定期考査の廃止」に続き、著者が見直したのが「1クラス1担任による固定担任制」という仕組みだ。麹町中学校では2018年度から学級担任を固定せず、学年担当の全教員でその学年の全生徒を見る「全員担任制」が採用されている。各教員の得意分野を生かすことが、生徒にとって大きな価値になると考えているからだ。
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