多くの人はインプットには熱心だが、アウトプットが足りていない。アウトプットをしていないということは、自分の考えを表現していないに等しい。それでは、たとえ人柄のよい人であっても、周囲から好感や関心をもたれにくい。そのため、アウトプット不足の人は損をする。
アウトプット不足の理由は、アウトプットに慣れておらず苦手意識をもっているからだ。現在は義務教育でアクティブラーニングが重視されている。そのため、若い世代はアウトプットに慣れつつある。だが、30代後半より上の世代はそうではない。アウトプット能力を上げるには、アウトプットを増やしてテクニックを磨くほかない。
アウトプットはスキーや車の運転に似ている。スキーの才能がある人でも、滑ってみないと誰かにその才能を見込まれることはない。また、スキーの才能がなくても、それは車の運転の才能の有無とは何も関係がない。あるアウトプットの才能がなかったからといって、ほかのアウトプットの才能もないというわけではないのである。
インプットのみ行う人に対して、アウトプットも行う人は圧倒的に少ない。そのため、アウトプットの出来にかかわらず、それをしたというだけで、多くの人々よりもはるかにクリエイティブだといえる。
アウトプットには文章表現のほか、さまざまな手法がある。トーク、写真、動画、ダンス、スポーツ、ものづくり。これらはすべてアウトプットだ。自分の脳だけでなく、主体的に体を使って何か成果を残すことは、全てアウトプットとなる。
そのため、書くことが得意でなければ、他の手法に挑戦してみればよい。例えば、写真や動画であれば、もはや高額な機材は必要なく、スマホがあればすぐに試せる。インスタグラムやユーチューブを使えば、ものづくりの過程・結果を多くの人に見てもらえる。つまり現在は、アウトプットのための環境が非常に整っているのだ。
文章のアウトプットに長けていると自覚している人は、別のアウトプット方法を身につけておくとよい。今では誰もがSNS上で文章を書いているので、書くという技術だけでは心許ない。文章プラスアルファの何かがあれば、現代の最低限のアウトプット技法が身についているといえる。
日本の国語の授業では、文章表現のテクニックを身につける充分な時間が設けられてきた。夏休みの宿題の絵日記、読書感想文、卒業文集などだ。そのため、義務教育を受けていれば、これ以上本などで文章術を学ぶ必要はない。それでも自信がなければ、これまで習ったテクニックを思い出し、実際に書いて自信をつけるしかない。
また、小中学校で書いた感想文、紀行文などの出来は、文章の才能に大いに左右される。だが、社会人が書くことを求められる文章とは、ズバリ「紹介文」だ。誰でも、才能がなくてもある程度のものを書ける類の文章である。さらには、この紹介文が上手く書けるようになると、世界は一気に広がる。SNSでの情報発信、ビジネスの場でのプレゼンや企画書にも活かせる。文章そのものでお金を稼ぐことも可能だ。
これからの時代、アウトプットをしながら生き残っていくためには、「書ける」ことが大前提になる。
文章というアウトプットのよい点は、修正ができるということだ。もちろん、商用の文章は公開前にミスがないかをチェックする必要がある。だが、個人のブログならそこまで神経質にならなくてよいだろう。
だからといって、書いてすぐに公開してもよいというわけではない。書き終えたら一晩寝かせ、翌日見直して適宜修正するとよい。すると、誤字脱字、重複表現、意味が伝わりづらい文章などを多く発見できる。それらを修正して、不安があればもう一度寝かせてみる。寝かすのは長くても二晩だ。このような手順を踏めば、書くことへのハードルが下がるだろう。最初から完璧をめざす必要はない。
それでは文章を書くためのポイントの一部を紹介する。
・自分で制限を設ける:自由に書くというのは難しいので、テーマ、文字数にはある程度制限がある方がよい。例えば、著者が主宰する書評サイトHONZでは、「発売から3ヶ月以内の、自己啓発書や技術書を含まないノンフィクション」という制限を設けている。
・簡単に書く:アウトプットの目的は、インプットを消化し、形を変えて放出することだ。文章を難しく書いて、読み手に賢く思われたいという欲は捨てよう。一般的な言葉で、できるだけ一文を短くする。一文の長さは昔話に出てくる程度の長さがよい。
・800字ならば、100字×8のつもりで:まずは長さの目安を800字にして、さらに100文字のブロックを8つと考えるとよい。著者は、HONZで新人に書き方を教える際、以下のようなブロックを意識させているという。
第1ブロック:その本の印象の紹介、第2ブロック:その本はどのような読者におすすめか、第3ブロック:内容紹介1(全体感)、第4ブロック:内容紹介2(第3ブロックとは別の側面)、第5ブロック:具体的な内容紹介1(代表的な部分の引用)、第6ブロック:具体的な内容紹介2、第7ブロック:著者紹介、第8ブロック:なぜその本をとりあげたのか。第5、6ブロックを、使い勝手や試用感などに変えれば、本以外の商品の紹介文にも応用できる。
・リズムを整える:ミスや余分な箇所を直したら、心地よいリズムに整える。読みながら「よっ」「はっ」などと合いの手を入れたくなるような文章が望ましい。リズムのお手本としておすすめなのは、都々逸調(どどいつちょう)という七七七五調だ。たとえば「三千世界の鴉(からす)を殺し ぬしと添い寝が してみたい」のようなリズムである。あるいは、「どんぐりころころ どんぶりこ」のように、七五調も効果的だ。
書くアウトプットは時間をかけられるし、修正もできる。しかし、話すアウトプットはそうはいかない。ただし、しっかり準備して話せば、内容の面白さに大きな差をつけられる。
何かを人に的確に伝えるには、それを客観的に捉えなければならない。まずは、最近読んだ本、見た映画について話してみよう。うまく伝えられないなら、その内容を充分に理解していない証拠だ。よって、自分の理解度を判断したいときは、他人に話してみるとよい。
話し始めると、途中で何を話していたのか、何を言いたかったのかがわからなくなるときがある。それを防ぐには、口を動かす前に「何を話すか」をだいたい決めておくことだ。話したい内容を毛糸玉に置き換えてみよう。その毛糸玉から毛糸を引き出すように言葉を引き出す。途中で言葉に詰まって毛糸の先を見失ったら、また毛糸玉全体に戻る。このように、戻れる場所を用意しておくのが、話の準備の9割を占める。
残念なことに、どれだけ準備して話しても、相手に伝わるのはごく一部にすぎない。聞き手が不特定多数の場合は、受け取られ方は聞き手の数だけある。当然、伝わらない内容も生じてくる。
何か伝わったとしても、それは話し手の一番伝えたかったことではない場合も多い。料理人が心をこめて作ったハンバーグよりも、付け合わせのにんじんのグラッセ、ポテトフライなどの方が印象に残るものだ。もしもメインのハンバーグだけにした場合、付け合わせに魅力を感じていた人たちは、「あの人の本には内容がない」「話がスカスカだ」という感想を抱いてしまう。そうならないために、サイドディッシュが必要なのだ。ネタを随所にちりばめれば、最も大切なことが伝わらなくても、何一つ伝わっていないということはなくなる。
この世には「摘出手術中」「骨粗鬆症」など、噛みやすい言葉が存在する。プレゼン中には、さほど難しい言葉でなくても噛んでしまうことがある。そんなとき、それを放置して先へ話を進めるとどうか。「あの人は噛んだ」という印象が残り、その後の話が記憶に残らなくなってしまう。
これを防ぐためには、はっきりと正しく言い直すことが大事である。聞き手の記憶を「正しく発音した」と上書きするのだ。くわえて、「摘出といえば~」「手術といえば~」などと小ネタを披露し、噛んだことを別のインパクトで覆い隠すとよいだろう。
この方法は、話のオチが聞き手に伝わらなかった場合にも使える。別の話題をオチにもってくるとよい。そうすれば、単に「話題を変えた人」という印象に上書きされる。このように、抱かれたくない印象を抱かれてしまったら、別の印象を抱いてもらえるようにして、ミスの印象を薄めるとよい。
次にプレゼンをする際のポイントのうち、いくつかを取り上げる。
・スライドは1枚1分:プレゼンや講演用に、ぎっしり文字が詰まったスライドを作るのは間違いだ。投影用のスライドは、持ち時間(分数)の数だけ用意するとよい。持ち時間が15分であれば15枚用意する。1分間に300文字のペースで話すなら、スライド1枚には、300文字で説明できる内容を収めるとよい。
・つかみは写真で:ビジネスプレゼンではなく、自分を知ってもらうためのパーソナルなプレゼンなら、スライドは全て写真にするとよい。プレゼン時には、その写真を見た聞き手の反応に対して、口頭で対応すればよい。このときに使用する写真は、まるでハンバーグ弁当のような、メインとなる被写体のまわりにいろいろなものが映り込んでいるものが好ましい。
・資料はできるだけ配付しない:配られた資料に先に目を通した人にとっては、プレゼンは資料をなぞるつまらないものになる。なるべく配布しないほうがよい。配布する場合も、それだけを見ても何のことかわからない資料にすべきだ。もしくは、投影用と配布用の中身を変えるとよい。
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