美術館で印象派の作品を観ると、具体的に人や風景が描かれているため、それがなにかは明白だ。しかし現代アートの作品の場合は作者の意図が理解しにくく、「分からないもの」として放置されやすい。
じつは専門家でも、現代アートのコンセプトをすぐに理解できるわけではない。だからこそおもしろいし、より知りたいという探求心を刺激する。
ひとつ言えるのは、マルセル・デュシャンというアーティストがコンセプチュアル・アートという概念をつくって以降、技法や造形美だけでなく、「作品をコンセプトで表現する」ことが現代アートでは重要視されているということだ。
デュシャンといえば「泉」という作品が有名である。これは男性小便器にサインをしただけの作品だが、美術史ではもっとも重要な作品のひとつとして数えられている。1917年、デュシャンはニューヨークのアンデパンダン展にこの作品を送り付けた。それまでの美術界では視覚的な美しさや稀少性が価値と見なされていたため、「泉」は世間に強烈なインパクトを残した。観る者に「芸術とはなにか」を見直させたのである。
デュシャンの登場以降、20世紀以降の多くの芸術家は「なにを芸術の中で表現するのか」を模索するようになった。加えてさまざまな表現が可能となったことで、美術の技術的なバックグラウンドがない人でも作品をつくれるようになり、表現者の数が爆発的に増えた。そして作品が増えたことにより、販売業者やマーケットの拡大も起きている。
世界のアート・マーケットはいま、8兆円を超える規模にまで成長している。そのうち40%が米国だが、日本は1%にも満たない。日本ではバブル崩壊以降、「アートは資産価値を下げてしまうもの」と認識されてしまったことも影響していると考えられる。
一方で世界には、1社で日本のアート・マーケット全体を超える売上のギャラリーがいくつも存在する。村上隆などを取り扱う世界最大手のガゴシアン・ギャラリーや、草間彌生などを取り扱うデイヴィッド・ツヴィルナーが代表的だ。大手のギャラリーで取引される作品は値下がりもなく、安定した価値がある。こうしたギャラリーで販売される作品をプライマリーマーケットと呼び、オークションなどでの取引をセカンダリーマーケットと呼ぶ。
アート・マーケットの拡大は、投資としてアートの価値が向上していることを意味する。正しい知識と情報をもって購入すれば、投資としてのリターンが高いということだ。
アート作品はいったんブームに火がつくと、驚くほど価格が上昇する。数年で価格が数十倍以上になる作品も珍しくない。売買手数料はオークションハウスだと15~20%もするが、賢く買えれば、株式投資よりもうまみがある。実際に富裕層は、アートを資産全体のポートフォリオの5%程度で運用していることが多い。
購入した後に評価が上がる作品には、共通の特徴がある。「発明品である」こと、そして「インパクトが大きい」ことだ。
ここでの「発明品」とは、どこかで見たことがあるものではなく、美術史のどこにも存在しなかった技法、制作方法、コンセプトであることを意味する。一方で「インパクト」とは、単純に見た目のことではなく、
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