最初の項目は、天才の定義に関わるものだ。『アメリカン・ヘリテージ辞典』によれば、天才の1つめの定義は非常にシンプルである。知能検査でIQが140以上と認められれば、あなたは天才というものだ。
しかし本書ではこの考え方は採らない。代わりに上述の辞典にあるもう1つの定義、「芸術、思索、実際的な分野で偉大と認められている人が備えているような、生来のすぐれた知的能力。独創的な創造、思考、発明、発見のための天性の並外れた才能」を採用し、IQの天才に対して「創造的天才CREATIVE GENIUS」という呼称を与えている。
「狂気と天才」――心理学者の間でも、狂気と天才は本質的につながりがあるとする立場と、誤った通念だとする立場に分かれている。数世紀にわたって議論を呼んでいる厄介な問題だ。
大まかにいえば、創造的天才の精神障害の発症率は、一般的な基準値を上回っている。著者の慎重な言い回しを引用すれば「狂気の天才説に懐疑的な人はいるが、創造的な天才を理解するうえで、やはりこの問題について考えることは非常に重要である」ということになる。
心の健康は分野によって異なるのだろうか? これも著者の言葉を引用すれば「精神に異常をきたした」芸術家のほうが、「狂気の」科学者より多いということになる。
とはいえ天才レベルの創造性が、そのまま精神障害を意味するわけではない。精神病を発症せずに創造性を発揮する天才は多数いる。精神障害を発症するのではなく、創造性を発揮するうえでカギとなる特性はいくつか知られているが、もっとも重要になるのは、IQで表現されるような高い知性であろう。なぜならIQが本当に高い人は、外から入ってくる大量の情報をうまく処理し、独創的なアイデアに変える能力に秀でているからだ。
「Nature(遺伝)&Nurture(環境)」という言い回しがある。この問題も長年にわたって研究者を二分してきた。もともと天才の研究は、「知性が親から子へ伝えられる」ことに着目して始まったものだ。研究例としては『種の起源』のダーウィンの一族、音楽家のバッハの系図などが挙げられる。
一方で遺伝よりも、家庭環境や教育の影響を強調する見方もある。天才の家系でありながら才能に恵まれないケースもあれば、際立った家系に生まれたわけではないのに大きな業績を残した天才もいる。後者の例としてはニュートン、デカルト、ドストエフスキーなどビッグネームが並ぶ。
一般知能が遺伝に大きく左右されることは知られている。しかしそれが創造的天才に直接結びつくわけではない。この問題を難しくしているのは、遺伝と環境の影響との見分けが、じつは非常に困難だという事実である。そのなかで著者が着目するのは、「開放性」という性格特性だ。
「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる有名な性格分析がある。経験への開放性(openness)、誠実性(conscientiousness)、外向性(extraversion)、 協調性(agreeableness)、神経症傾向(neuroticism)の5つから構成され、頭文字を並べると「OCEAN」になる。このなかで創造的天才ともっとも強く結びついているのが開放性(=オープンな姿勢)だ。
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