小学校の算数で習う「速さ×時間=距離」「元にする量×割合=比べられる量」の式は、それぞれ「は・じ・き」「く・も・わ」という用語と、円形の図を合わせて、子どもたちに教えられている。この学習の仕方は数学教育の現場で深刻な問題を引き起こしているという。10年ほど前から、先生方の「時間と距離と速さの問題で奇妙な間違いをする学生がいる」という声や、学生の「『%』って何でしたっけ?」という声が、著者の周囲で聞かれるようになった。
時間と速さなどに関する問題で誤答となった学生は「は・じ・き」「く・も・わ」の図を描いていることが多く、正答した学生のうち、これらの図を描いた学生は少なかったという。誤答となった学生たちはこうした図を学んだ際、プロセスを理解せずに「やり方」としてただ暗記していたそうだ。
「数学は一歩ずつプロセスを大事にする教科であり、答えを当てる教科ではない」と著者は強調する。さまざまな分野で、数学的に得られた結果を用いるときには、プロセスを大切にする議論は欠かせない。こうした考え方を学ばずに育てば、間違いをおかしたときにプロセスを見直して、間違いを見つける力が身につかないのである。
プロセスを無視した教育は、小・中・高校の広範な数学分野にわたっている。たとえば、「分数÷分数」の割り算に関して、ただ「分数で割ると、分母と分子をひっくり返して掛ける」というふうに、ただ「やり方」を暗記して育ってしまうと、「やり方」を忘れたとたんに解けなくなってしまう。
もちろん、一方ではきちんとした学びも行なわれている。なぜ分母と分子をひっくり返して掛けるかを説明する場合、証明するのではなく具体的事例を示すことで教えている。2/3÷1/6=4というような式について、2/3と1/6のそれぞれの値を、ケーキを分割したような図で表して、式が成り立つことを示す。そうして、分数の割り算を一般的な性質として納得させるのである。こうしたプロセスを経て理解しないと、突然問題が解けなくなってしまうのである。
「は・じ・き」「く・も・わ」式の教育が蔓延する主因は、数学マークシート式試験にある。数学マークシート式試験は、同一の問題には同一の点がつく上、当てずっぽうに書いても満点を取る確率は低いことから、公平だとされている。
しかし、この試験方法には、問題の意図を理解せずに解ける、さまざまな裏技がある。たとえば、「文字に具体的な数字を入れて正解を見破ることができる問題」が存在する。これは、記述式であれば不正解となる解答でも、採点者側はどのような方法で導かれたのかを知ることができないので正解としてしまうという重大な欠陥だ。他にも、正答率を上げる方法として、
3,400冊以上の要約が楽しめる