IRは「Integrated Resort」の頭文字をつなげた言葉で、「統合型リゾート」と訳される。いろいろな施設がひとつのエリアにまとまり、リゾート拠点を形成する。
IRに入る施設として、まず挙げられるのがMICE(マイス)だ。これは企業などの会議(Meeting)、報償・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関や国内団体などが行う会議(Convention)、展示会・見本市やイベント(Exhibition/Event)、それぞれの頭文字を取っている。
また宿泊施設もIRには欠かせない。加えて劇場や映画館、スポーツアリーナなどの文化・エンタテインメント施設、レストランやショッピングモールなども入る。
これほど多様な施設を統合する目的は、広く国内外からさまざまな属性の客を誘致するためだ。たとえばMICEで行われる国際会議に参加する経営者やビジネスパーソンには、家族連れも多い。IRなら会議中でも、子どもたちはエンタテインメント施設で過ごせるし、会議が終われば一家でディナーを楽しむことも可能だ。もちろんビジネス客だけでなく、カップルや子ども連れの家族、高齢の夫婦など、幅広い年齢層の方が楽しめるように工夫されている。
たしかにIRには、カジノもある。ただしカジノは、IRの一施設に過ぎない。IR=カジノではないのだ。
それにもかかわらず日本では「IR=カジノ」という見方が広まっている。これは2016年のIR基本法がきっかけだと思われる。IR推進法はIRの設立を推進する基本法だが、同時にそこでカジノ解禁への道筋も示された。これにより一部のメディアが、IR推進法をカジノ推進法と呼んだのだ。
さらに2018年にはIR実施法が成立。IRの整備に向けた動きが始まっていくこととなった。ただしIR実施法の細則によると、カジノの営業区域の延床面積はIR全体の3%以下に制限することとなっている。この3%という数字は、日本がモデルにしているシンガポールのIRとほとんど同じである。この数字からも、IRをカジノと同一視するのは実態とかなり異なることがわかるだろう。
ではなぜ、IRにはカジノが必要なのか。日本がモデルにしているシンガポールのIR「マリーナ・ベイ・サンズ」を例に取ると、じつはIR全体の売上高のうちの78%をカジノが占めている。さらにいえばカジノはIR全体の3%に満たない施設のため、建設費などの初期投資は他の施設に比べて極端に少ない。つまりカジノは、利益率がとても高いのである。
IRも常に新しい施設などを開発し魅力を高めていかなければ、かならず飽きられてしまう。それを防ぐための再投資に、カジノで稼いだ利益が必要なのだ。
IRは、国の交付金や補助金による箱モノ建設プロジェクトや産業支援策とは異なる。
IR実施法によると、自治体と自治体が事業者(民間の企業)を選定し、その事業者がつくったIRの基本計画を認可するのは国となっている(認可するのは現時点で3つのみ)。こうして認可を受けたIRは、開業準備から開業後の運営まで、その事業主体は民間企業となる。公的資金や税金は使わず、民間主体で地域経済の自立を目指すプロジェクト、それがIRなのだ。
日本で実施しようとしているIRについて、政府は「日本型IR」と呼んでいる。
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