犯罪に手を染めた少年(男子・女子含めた総称)たちの一部は、少年院に送られる。少年院は全国に52ヵ所あり、対象はおおむね12歳以上26歳未満の少年だ。法に触れる行為をした者または、それをする恐れがある者が収容されることになっている。
20歳未満の少年が警察に捕まると、まず家庭裁判所に送られる。彼らは在宅のまま、または少年鑑別所に2~6週間収容された上で、非行事実や家庭環境などを調べられる。家庭裁判所が少年院送致の決定を下すのは、全体の2~3%ほどだ。大半は不処分か保護観察処分となる。
ある少年によると、少年院送致と保護観察処分は「地獄と天国」ほど違うという。ただし、両者をわける判断基準は決して明確ではない。家庭裁判所の下す決定は、裁判官の考え方によるところが大きい上、地域差もあるとされている。そのため、同じ事件を起こしても、少年院送致になる場合とそうでない場合が生じる。「運が悪いから少年院に来ただけ」と考えてしまうため、少年院に送られても罪悪感を持つことができない者もいる。
少年院は社会復帰のための矯正教育を施す場所であり、その点で成人の刑務所と明確に異なっている。自分自身や罪と向き合い、人間関係を構築する方法を学び、各種資格を習得して社会で自立していけるようにすることが、少年院の役割だ。
九州で唯一の女子少年院「筑紫少女苑」には、18名の女子が収容されている。非行内容は窃盗、傷害、死体遺棄、詐欺など多岐にわたるが、一人の少女が複数の非行を積み重ねているケースが大半だという。
少年院に来る少年たちの中には、不健全といえるような家庭環境で育っている者も一定数いる。身体的・性的虐待を受けていたり、食事をつくってもらえなかったりと、子供にとって、家庭が安心・安全な場ではなく、劣悪な環境に置かれていることも少なくない。「虐待と呼べなくても9割の少年が家庭に問題を抱えている」と語る少年院の法務教官もいるほどだ。親の理想が非常に高く、無理なスパルタ教育を課されてきた子も多いという。
では、少年たちはどのように育ち、どのような非行を犯して少年院にやってくるのか?
筑紫少女苑に送られた谷美帆子(19歳)は、中学時代からリストカットを繰り返してきた。両親は離婚し、母は元暴力団員の男と再婚。母親と義父の間には4人の子が生まれた。義父は凶暴な性格で、常に家庭内暴力が絶えなかったという。
洋服さえまともにそろえてもらえなかった美帆子は、学校で「うざい」「臭い」「汚い」などと罵られていじめに遭う。学校へは、小学校高学年から行かなくなった。
中学に進学してからはたびたび家出をし、不良グループとすごすようになった。彼らとともに万引き、恐喝などをするうちに、先輩から勧められた援助交際に手を染める。中学3年の時に少年院へ送致されるが、施設でもリストカットを繰り返した。
美帆子が出院して家に戻ると、相変わらず義父が暴力を振るっていた。美帆子は家を出て、詐欺グループの男たちと同居する。そのうちに13歳の男子の子を身ごもったが、双方の母親に猛反対され中絶。生きている意味を見失い、自殺を試みた。
その後は、行き場のない思いを発散するように万引きを繰り返した。スーパーで捕まったことをきっかけに二度目の少年院送致が決まり、筑紫少女苑へやってきたのだという。
本書では、美帆子のほか、筑紫少女苑に送られたもう一人の少女、朱里の例も紹介される。
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