虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか

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虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか
出版社
出版日
2019年05月15日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

あなたは、2015年に起きた「川崎中一男子生徒殺害事件」を覚えているだろうか。17~18歳の少年3人が中学1年生の男子を呼び出し、カッターナイフで43回切りつけた末に殺害した事件だ。あまりの凄惨さに声を失った方も多いのではないだろうか。

その後捜査が進むにつれ、加害少年たちの劣悪な家庭環境が明らかになっていった。彼らは日常的に家庭内暴力や育児放棄を受けていたのだ。

精神医学や心理学の専門家は、少年犯罪の加害者たちの多くが虐待を受けた経験があると指摘する。幼い頃の虐待体験が、彼らを他人の気持ちを想像できない人間にしてしまい、犯罪に走らせていると分析されている。

少年事件が起こると必ず取り沙汰される「心の闇」。生まれたときは、誰もが純粋無垢な“天使”であったはずだ。それなのにたった十数年の間に、平気で罪を犯す“悪魔”へと変貌していくのだ。

本書は、「川崎中一男子生徒殺害事件」をはじめ、少年犯罪や虐待、貧困などの社会問題を長年に渡って取材・執筆し続けてきた石井光太氏による渾身のルポルタージュだ。石井氏は少年たちをはじめ、全国の少年院職員や関係者、被害者遺族に綿密な聞き取りを行い、事の本質を探っている。少年たちの心を壊したものは何か。問題の根源は何なのか。

罪を犯した少年たちは、いずれ社会へ戻ってくる。少年犯罪を「怖い」「かわいそう」で済ませてはならない。彼らと同じ社会に生きる者としてどう向き合うべきか――そう考えさせられる力作である。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

石井 光太(いしい こうた)
1977年東京生まれ。作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。著書に『物乞う仏陀』(文春文庫)、『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『浮浪児1945- 戦争が生んだ子供たち』(以上、新潮文庫)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)、『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『漂流児童 福祉施設の最前線をゆく』(潮出版社)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    少年院に送られる少年たちは、幼い頃から家庭内暴力や性的虐待などを日常的に受けて育ってきたケースが多い。彼らにとって家庭とは、安心できる場所とは程遠いものだ。
  • 要点
    2
    非行少年たちは自己否定感が強く、他人の気持ちを想像する力に乏しい。それは、自身が傷つけられた経験と深く関係している。
  • 要点
    3
    少年院で矯正教育を受けても、再犯して戻ってしまう者が一定数いる。少年院を出た後の生活環境が、更生の可否を大きく左右する。

要約

少年院とはどのような場所か

少年院の役割
Favor_of_God/gettyimages

犯罪に手を染めた少年(男子・女子含めた総称)たちの一部は、少年院に送られる。少年院は全国に52ヵ所あり、対象はおおむね12歳以上26歳未満の少年だ。法に触れる行為をした者または、それをする恐れがある者が収容されることになっている。

20歳未満の少年が警察に捕まると、まず家庭裁判所に送られる。彼らは在宅のまま、または少年鑑別所に2~6週間収容された上で、非行事実や家庭環境などを調べられる。家庭裁判所が少年院送致の決定を下すのは、全体の2~3%ほどだ。大半は不処分か保護観察処分となる。

ある少年によると、少年院送致と保護観察処分は「地獄と天国」ほど違うという。ただし、両者をわける判断基準は決して明確ではない。家庭裁判所の下す決定は、裁判官の考え方によるところが大きい上、地域差もあるとされている。そのため、同じ事件を起こしても、少年院送致になる場合とそうでない場合が生じる。「運が悪いから少年院に来ただけ」と考えてしまうため、少年院に送られても罪悪感を持つことができない者もいる。

少年院は社会復帰のための矯正教育を施す場所であり、その点で成人の刑務所と明確に異なっている。自分自身や罪と向き合い、人間関係を構築する方法を学び、各種資格を習得して社会で自立していけるようにすることが、少年院の役割だ。

どんな子が少年院にいるのか

九州で唯一の女子少年院「筑紫少女苑」には、18名の女子が収容されている。非行内容は窃盗、傷害、死体遺棄、詐欺など多岐にわたるが、一人の少女が複数の非行を積み重ねているケースが大半だという。

少年院に来る少年たちの中には、不健全といえるような家庭環境で育っている者も一定数いる。身体的・性的虐待を受けていたり、食事をつくってもらえなかったりと、子供にとって、家庭が安心・安全な場ではなく、劣悪な環境に置かれていることも少なくない。「虐待と呼べなくても9割の少年が家庭に問題を抱えている」と語る少年院の法務教官もいるほどだ。親の理想が非常に高く、無理なスパルタ教育を課されてきた子も多いという。

谷美帆子(19歳)の事例
Tinnakorn Jorruang/gettyimages

では、少年たちはどのように育ち、どのような非行を犯して少年院にやってくるのか?

筑紫少女苑に送られた谷美帆子(19歳)は、中学時代からリストカットを繰り返してきた。両親は離婚し、母は元暴力団員の男と再婚。母親と義父の間には4人の子が生まれた。義父は凶暴な性格で、常に家庭内暴力が絶えなかったという。

洋服さえまともにそろえてもらえなかった美帆子は、学校で「うざい」「臭い」「汚い」などと罵られていじめに遭う。学校へは、小学校高学年から行かなくなった。

中学に進学してからはたびたび家出をし、不良グループとすごすようになった。彼らとともに万引き、恐喝などをするうちに、先輩から勧められた援助交際に手を染める。中学3年の時に少年院へ送致されるが、施設でもリストカットを繰り返した。

美帆子が出院して家に戻ると、相変わらず義父が暴力を振るっていた。美帆子は家を出て、詐欺グループの男たちと同居する。そのうちに13歳の男子の子を身ごもったが、双方の母親に猛反対され中絶。生きている意味を見失い、自殺を試みた。

その後は、行き場のない思いを発散するように万引きを繰り返した。スーパーで捕まったことをきっかけに二度目の少年院送致が決まり、筑紫少女苑へやってきたのだという。

家庭環境が少年たちに及ぼす影響

本書では、美帆子のほか、筑紫少女苑に送られたもう一人の少女、朱里の例も紹介される。

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要約公開日 2019.09.15
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