スミタはとくべつな気持ちで目を覚ます。今日は彼女の娘が学校に入る日だ。
スミタ自身は学校には縁がなかった。不可触民、「ダリット」である彼女は、カーストの外、あらゆる制度の外にある。ほかの者に混じるにはあまりに不浄な存在として。
ジャート族の畑のそばのあばら家で寝起きし、毎朝、悪臭を放つ藤籠を持つ。母から受け継いだ藤籠に、他人の糞便を一日中拾い集めるのだ。初めて母の仕事についていったのは、今のラリータと同じ、6歳のころだった。あまりの悪臭に、スミタは道ばたに吐いた。政府が約束したトイレはまだ村にはなく、人は野外で用を足す。恵まれた者は自宅の隅に専用の穴をしつらえ、それを素手で汲みだすのがダリットの女だ。ジャート族に逆らえば、家に火をつけられ、土地を追われる。ばらばらに切断され、酸で焼かれた姿で見つかった同輩もいる。
いつしかスミタは決めたのだった。娘を学校へ行かせる。娘は自分と同じことはしない。スミタは、反対する夫のナガラジャンを粘り強く説得した。ナガラジャンは折れて、村の学校へ行ってバラモンと話をした。
スミタは運がいい。ここでは普通、妻は夫の所有物であり、奴隷である。生まれた子が女の子なら殺されるが、ナガラジャンはラリータを育てることに賛成してくれた。
ラリータは美しい娘だ。スミタは、ラリータの長い髪を毎朝とかして編む。ラリータは読み書きができるようになる。そう思うと嬉しくなる。
ジュリアは母の呼び声でしぶしぶ起き上がる。また読書で夜ふかししたので起きるのがつらい。
自転車に乗り、大通りから離れた袋小路に着くと、そこが作業場だ。従業員更衣室で仕事着に着替え、髪をきつくまとめて三角巾で覆う――自分の髪の毛が、作業場で加工される髪に混ざらないように。この姿になれば、もはや社長の娘ではなく、ランフレッディ社の一員となる。
ジュリアはここで、にぎやかな女たちと発注すべき注文品に囲まれて育った。毛髪は機械でほぐされ、洗浄され、窓辺に干された。一家が毛髪(カスカトゥーラ)を生業にして一世紀近くが経つ。シチリアの伝統で、抜け毛や切り髪は保存され、ヘアピースやかつらに加工される。ジュリアは16歳になったとき、高校を辞めて作業場を手伝うことに決めたのだった。ほかの姉妹は家業に興味を示さなかった。
ジュリアは父から秘伝の技術を習った。父の毛髪の扱いには、忍耐、厳密さ、そして愛がある。
その日の午後のこと、作業場の女たちのひとりが、電話があったことをジュリアに告げた。「パッパが大変なことになった」
毎朝、サラは五時半に起きる。一日は分刻みに正確に決められ、準備され計画されている。朝食をととのえて、長女と双子を学校に送り、法律事務所に向かう。
サラ・コーエンは、権威ある法律事務所ジョンソン&ロックウッドにおいて、アソシエイト弁護士にのぼりつめた最初の女性だ。ハードワークで「ガラスの天井」など粉砕した。敵意を向けてくる野心家の男たちのあしらいは
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