モデルSはテスラが初めて自社で全面的に製造したクルマであり、ガソリン車の時代に終わりが来る可能性を最初に示した存在だ。バッテリーを一度充電すれば426キロ走ることができるし、全世界に設置される高速充電スタンド「スーパーチャージャー」でも無料で充電できる。
驚くべきはその運転性能だ。416馬力のトルクは、わずか4秒ほどで高速に達するスピード性能を生み出す。化学反応によりエンジンを動かすガソリン車と比較し、電子的に反応するモデルSは、瞬時にクルマが持つ力を引き出すことができるのだ。
自動車や石油業界の有力者は、実用的なEVは存在しえないと主張してきた。しかし、彼らはイーロン・マスクを知らなかった。十分な金と知性だけでなく、世界がEVに対してもっていた認識すべてをひっくり返そうという衝動をもった人間のことを。
イーロン・マスクは南アフリカで生まれた。17歳のとき、アパルトヘイト時代の南アフリカから抜け出すことを決意し、カナダへ。クイーンズ大学を経てペンシルバニア大学のウォートン・スクールに編入すると、将来の電気自動車につながる2つの論文を発表した。
折しも時代はドットコムのバブルに沸いていた。マスクもその波にのり、経営者としての才能を開花させる。立ち上げたインターネット企業をコンパックに売却して2200万ドルを手にした後は、オンライン決済最大手ペイパルを共同で創業し、1億8000万ドルもの大金を手にした。これを元手にスペースXを立ち上げ、テスラ・モーターズという無名の電気自動車メーカーに出資したのだ。
2008年、マスクはテスラのCEOになる。だがトップ就任後、早々に世界的な金融危機に立ち向かわなくてはならなかった。その後も、自動車産業を変革しようとしているテスラに、電気自動車の発展を阻んできた障害が次々と襲いかかることになる。
最初に訪れた障害は、リチウムイオン電池の炎上事故だ。発火しやすいというリチウムイオン電池の特徴が着目され、モデルSの炎上事故が過剰に取り上げられるようになった。ガソリン車の方がはるかに多くの火災事故を起こしているにもかかわらずだ。調査に乗り出した米国運輸省道路交通安全局によって、安全性の欠陥は認められなかったと発表され、世間を騒がせた炎上騒動は沈静化した。
テスラストアでの直販戦略に批判が集まったこともあった。
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