人工知能(AI)は、アプリやソフトウェアのようにインストールしてすぐ使えるものではない。目的に応じて作り変えたり、目的に応じたデータを収集したりする必要がある。そのため、人工知能を導入するにあたっては、「どのような課題(イシュー)を解決するために、人工知能を適用していくか」を考えることが重要だ。つまり、「イシュー指向型」で人工知能の活用方法を考えることが、人工知能導入を成功させるためのキーとなる。イシュー指向型AI、データサイエンスについては、もともと慶應義塾大学の清木康教授が提唱していたものであり、それを受けて武蔵野大学データサイエンス学部のカリキュラムなどにも取り入れている。
ここでいう「イシュー指向型」とは、解決しなければならないイシューを見極め、その本質的な課題を起点にして人工知能の導入を進めていく方法を意味する。
人工知能の導入を「イシュー指向型」ではない形で進めようとすると、「事例疲れ」や「PoC(ポック)疲れ」が起こることがある。
まず、「事例疲れ」だ。いくら自社と似ている事例でも、すべての条件が同じであるはずはない。だからいくら似た事例を集めても、導入につなげることは難しい。
「事例疲れ」に陥らないためには、既存の事例に合わせるのではなく、自社のイシューを解決するためのヒントとして事例を参考にするというスタンスで臨むとよい。
次に、「PoC疲れ」だ。PoC(Proof of Concept)は、新しい概念、理論、アイデアが本当に実現可能かどうかを検証する工程を指す。転じて「PoC疲れ」とは、実証実験ののち、導入やビジネスに結びつかずに頓挫してしまうことを指す。
「PoC疲れ」を避けるためには、「自社にとって解決すべきイシュー」を発見し、磨き、人工知能に活用できる形に細かく分解する作業をないがしろにしないことだ。イシューを解決できることがはっきりすれば、導入前に足踏みすることはなくなるだろう。
人工知能には、人間の知能そのものを持つ「強い人工知能」と、人間が知能を使って行うことを機械にさせようとする「弱い人工知能」がある。現在研究されているものの大半は「弱い人工知能」である。
また「汎用型人工知能」と「特化型人工知能」という分類もある。前者は、入力に応じて様々な役割をこなし、人間と同様もしくはそれ以上の能力を持つ人工知能のこと。後者は、何か一つの役割に特化した部分で性能を発揮する人工知能を指す。例えば、囲碁でプロ棋士を打ち負かした人工知能は、囲碁に限って人間の能力を凌駕(りょうが)する特化型人工知能だといえる。
現時点において実現され、ビジネスに応用できる人工知能は、弱い人工知能であり、特化型人工知能である。
現時点における「競争優位を生み出す人工知能」は、「特化型人工知能」である。例としては、Google HomeやAmazonのEchoといったスマートスピーカーが挙げられる。スマートスピーカーが搭載しているのは、「音声認識」という特化型人工知能だ。
スマートスピーカーは、デバイスを通じてユーザーの情報を取得している。取得した情報は、さらなる競争優位につながる。スマートスピーカーを通して得られた情報を分析することで、ユーザーの嗜好により合致したコンテンツを提供できるからだ。
要するに、
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