最近メディアでもよく取り上げられる「失業率の低下・有効求人倍率の上昇のトレンド」の背景にあるのは、構造的な生産年齢人口の減少だ。日本の四半世紀にわたる低い成長率も人口要因による。著者の専門は金融論であるが、日本の金融政策が限界に直面するにあたり、人口問題について再考すべきというのが本書の出発点である。
国立社会保障・人口問題研究所は、「老年人口は今後も緩やかに増加した後おおむね横ばいになるが、生産年齢人口は急テンポで減少し続ける」と展望している。
この「人口減少ペシミズム」に対して本書は、外国人入国超過数に着目する。この場合の「外国人」とは、旅行者などの短期滞在者は含まない。外国人入国超過数は、トレンドから仮定値を算出すると、社人研の想定値を大きく上回るはずだ。総人口の減少や老年人口比率上昇は、毎年の外国人入国超過数が現状の15万人程度であってもかなり抑えられ、50万人になればきわめて緩やかになるとみられる。
では外国人を大量に受け入れればいいかというと、ことはそう簡単ではない。流入する外国人はそれぞれの国の過去を背負ってくるため、大量に流入すれば経済も社会も大きく変わる。
国際的な用語としては、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々は国際移民とみなされ、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼ぶ。日本の外国人労働者の多くは恒久移住者といえる。
『移民の経済学』で著名なジョージ・ボージャスは、移民受け入れの基本的な経済効果について、次のような枠組みを設定している。まず、移民が追加的に労働市場に入ってくることで賃金は低下する。この賃金減少分は、人件費を節約できた企業の利益になる。ここでの企業の利益は、経済分析上、移民の受入国(以下、ホスト国)への恩恵、いいかえれば「移民余剰」となる。しかし、これをボージャスが計数化したところによると、移民余剰は、国内労働者の損失と比べると一桁小さい程度にとどまる。つまりこれは、国内労働者に十分な賃金を払う体力のない企業が、低賃金の移民受け入れによって生き延びる、という構図を表している、というのである。
ただしこの構図は、移民が国内労働者と代替的な関係なのか、それとも移民の流入によって国内労働者の賃金が上がるような補完的な関係なのかによって変わる。しばしば強調されるのは、単純労働者と高度人材を区別する必要性である。
賃金への影響について、多くの実証研究は、特定の労働市場における賃金と移民比率の相関は小さいことを示している。しかし、日本では代替的に外国人労働者を受け入れている現状もあり、国内労働者の賃金に抑制方向の影響が出るのは当然といえよう。
また、原則的に外国人には自国民と同じ社会福祉制度を適用する日本では、税収と社会福祉コストの双方が外国人の流入によって大きく変化することにも注意が必要である。
移民の流入には社会的影響もある。しかも、その程度は経済的影響より大きい。
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