移民とAIは日本を変えるか

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移民とAIは日本を変えるか
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出版社
慶應義塾大学出版会

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出版日
2019年07月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

安倍晋三首相は2018年10月29日の衆議院本会議で、入管難民法改正案について「政府としては、いわゆる移民政策をとることは考えていない」と述べた。

この発言の背景にはさまざまなものがあるが、現実の日本社会には既に多くの外国人が住んでおり、事実上移民社会となっていることは否定できないであろう。本書では、多くの政府統計や国際データにもとづいて、世論調査の結果だけでは見えてこない実態を検討している。今後日本がどこに舵を切っていくべきか、単純に外国の事例を参考にすることは難しいが、血統主義であるなど背景が比較的日本と近いドイツの様子など、日本にとっての参照点を豊富に提示する。

また、昨今、生産年齢人口減少問題とからめて取りざたされるAIについても、経済、社会的な側面から考える。一般的に、AIも移民も、単に現在の「労働力の代替」として捉えられがちであるが、著者は移民とAIを並列で論じることはしない。人間である移民は当然のこととして、AIについても単純な労働力としてのみ考えているわけではないことは、特筆すべき観点だ。移民とAIは何を補完するべきかが主眼におかれ、論じられる。

移民は無色透明なものではない、おのおのの過去を背負ってくる存在だ、と著者は再三主張する。移民とその家族が日本社会に既に数多く存在しているという現実に即して、だからこそ何を整えるべきなのか、という建設的な議論を促す本書は、働く現場に考え方の指針を与えてくれるだろう。

著者

翁 邦雄(おきな くにお)
1951年生まれ。74年、東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。83年、シカゴ大学でPh.D.取得。以後、筑波大学社会工学系助教授、日本銀行調査統計局企画調査課長、企画局参事、金融研究所長等を経て2006年、中央大学研究開発機構教授に就任。
09年京都大学公共政策大学院教授。17年より法政大学大学院政策創造研究科客員教授、京都大学公共政策大学院名誉フェロー。
主著
『期待と投機の経済分析』東洋経済新報社、1985年、日経・経済図書文化賞受賞
『金融政策』東洋経済新報社、1993年
『ポスト・マネタリズムの金融政策』日本経済新聞出版社、2011年
『経済の大転換と日本銀行』岩波書店、2015年、石橋湛山賞受賞
『金利と経済』ダイヤモンド社、2017年 など

本書の要点

  • 要点
    1
    AIはタスクの効率や精度を高める。そのため、生産過程の他のタスクを受け持つ人間に大きな補完効果をもたらし、同時に高度人材へのニーズを増やす。移民は、トータルな人間が要求される職業において国内労働者を代替したり、補完したりすることができる。
  • 要点
    2
    いまの日本が考えるべきなのは、AIと共存することによる賃金の引き上げ、移民やその子弟を含めた質の高い教育環境の用意、基礎研究や企業への積極的支援である。

要約

人口問題への着目

人口ペシミズムの確実性
Orbon Alija/gettyimages

最近メディアでもよく取り上げられる「失業率の低下・有効求人倍率の上昇のトレンド」の背景にあるのは、構造的な生産年齢人口の減少だ。日本の四半世紀にわたる低い成長率も人口要因による。著者の専門は金融論であるが、日本の金融政策が限界に直面するにあたり、人口問題について再考すべきというのが本書の出発点である。

国立社会保障・人口問題研究所は、「老年人口は今後も緩やかに増加した後おおむね横ばいになるが、生産年齢人口は急テンポで減少し続ける」と展望している。

この「人口減少ペシミズム」に対して本書は、外国人入国超過数に着目する。この場合の「外国人」とは、旅行者などの短期滞在者は含まない。外国人入国超過数は、トレンドから仮定値を算出すると、社人研の想定値を大きく上回るはずだ。総人口の減少や老年人口比率上昇は、毎年の外国人入国超過数が現状の15万人程度であってもかなり抑えられ、50万人になればきわめて緩やかになるとみられる。

では外国人を大量に受け入れればいいかというと、ことはそう簡単ではない。流入する外国人はそれぞれの国の過去を背負ってくるため、大量に流入すれば経済も社会も大きく変わる。

移民流入で何が起きるか

経済的影響――ボージャスによる分析の枠組み

国際的な用語としては、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々は国際移民とみなされ、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼ぶ。日本の外国人労働者の多くは恒久移住者といえる。

『移民の経済学』で著名なジョージ・ボージャスは、移民受け入れの基本的な経済効果について、次のような枠組みを設定している。まず、移民が追加的に労働市場に入ってくることで賃金は低下する。この賃金減少分は、人件費を節約できた企業の利益になる。ここでの企業の利益は、経済分析上、移民の受入国(以下、ホスト国)への恩恵、いいかえれば「移民余剰」となる。しかし、これをボージャスが計数化したところによると、移民余剰は、国内労働者の損失と比べると一桁小さい程度にとどまる。つまりこれは、国内労働者に十分な賃金を払う体力のない企業が、低賃金の移民受け入れによって生き延びる、という構図を表している、というのである。

ただしこの構図は、移民が国内労働者と代替的な関係なのか、それとも移民の流入によって国内労働者の賃金が上がるような補完的な関係なのかによって変わる。しばしば強調されるのは、単純労働者と高度人材を区別する必要性である。

経済的影響――ホスト国の労働者の賃金への影響
bankrx/gettyimages

賃金への影響について、多くの実証研究は、特定の労働市場における賃金と移民比率の相関は小さいことを示している。しかし、日本では代替的に外国人労働者を受け入れている現状もあり、国内労働者の賃金に抑制方向の影響が出るのは当然といえよう。

また、原則的に外国人には自国民と同じ社会福祉制度を適用する日本では、税収と社会福祉コストの双方が外国人の流入によって大きく変化することにも注意が必要である。

社会的影響――ドイツの経験に学ぶ

移民の流入には社会的影響もある。しかも、その程度は経済的影響より大きい。

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要約公開日 2020.01.02
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